翌週からヒル魔に対するいじめはぴたりと止み、二人は放課後や休日の大半をクリフォードの部屋で過ごすようになった。
しかし、最後までヒル魔がクリフォードに本名を明かすことはなく、帰国が迫ってからも、一切態度には出さなかった。
クリフォードへの思いが募るほど、アメフトがしたい、という気持ちも強くなって、そしてその気持ちは、クリフォードと
一緒にプレイしたい、というものではなく、自分のチームで彼と戦いたい、という形で存在していた。
ヒル魔を抱いてからこっち、クリフォードの態度が露骨にヒル魔を守るようなものになったことに対する苛立ちもあった。
ロッカールームで抱かれた後、部屋に戻ってからまた服を剥ぎとられたとき。
「意外と鍛えてるな」
薄らと割れ始めていた腹筋を指して、クリフォードに言われた。
「何か、やってたのか?」
アメフトをやっていたのかと聞かれなかったのは、仕方ないとは思う。
自分はまだ始めたばかりで、体も成長しきっていなくて、そもそもアメフトプレイヤーとしては細すぎるきらいがある。
そんな何もかもを自覚はしていたが。
それでも、いつかそんなことを言えないぐらい力をつけて、目の前に立ってやる、と思うと同時に、そのために、まずは
日本一になるために、クリフォードと遠距離で恋愛関係を続けている余裕なんてどこにもない、とも思った。
このままアメリカで、クリフォードの傍で続けようとは思わなかった。
たった二人だけれど、大切な仲間が日本で彼を待っている。
絶対クリスマスボウル。
それ以上に重い誓いは、ヒル魔の中にはない。
それでも。
(離れたくねえな)
そう思う気持ちも存在して、帰国の数日前はどうしようもなくヒル魔の心はかき乱された。
黙って姿を消してクリフォードがどう思うだろうか、と考えなかったわけではないけれど、相変わらず彼の周囲を取り巻く
華やかなチアや黄色い声援を送ってくる少女たちを思えば、案外あっさり忘れるんじゃないかなんて、女々しいことを思って
しまう自分が嫌で。
いつまでも引きずってはいられないのに。
彼への思いを忘れなければいけないのは、自分の方なのに。
強くなりたい、と思う。
親元を離れたときから飢えるように思っていたことだけれど、今、アメフトとクリフォードの両方を手に取れる力がない
ことが、ひどくもどかしい。
ここで離れてしまえば、もう一度同じように愛されることはないだろうけど、それでも、いつか、と願わずにはいられない。
いつか、もっと強くなって、クリフォードと対等なプレイヤーになったら。
そうなったら、もう、片方を手放すようなことをしなくてすむのだ、と。
恋人には戻れなくても、思いを殺すような真似はしなくていいはずだ、と。
離れるのがどんなに辛くても、自分に力がないのだから仕方がない。
力のなさを嘆く暇があったら、もっと強くなるためにやることはいくらでもある。
最後の夜、バイクの後ろに相変わらず横乗りしながら、何度も自分に言い聞かせた。
「good night. 」
おやすみのキスも、これが最後だ。
「good night.…Cliff」
そして、さよなら。
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