「クリフォ、ド…?」
こんなことぐらいで激昂してしまう自分が信じられない。
濃紺のスカートを白濁で汚して、眼尻に涙を光らせたまま力無く体を投げ出している相手を前に溜息を吐くと、少し怯えを
滲ませた声で呼ばれて、呼び名が元に戻っていることに気づく。
クリフ、と呼ぶときの声は、本人は自覚していないのだろうが、普段より甘い。
アメフト仲間にも愛称では呼ばさないクリフォードが、ヒル魔だけは自分の内側に入り込むことを許しているのだと、無意識
のうちに悟っているのだろう、いつも呼ぶときには戸惑い、躊躇い、そのくせどこかしら愛しさを滲ませたような柔らかい声で
呼ぶのだ。
それなのに、今、細い体を震わせて自分を呼ぶ声からは、その甘さが消えかかっていた。
「sorry.」
傷ついたような瞳に、そっと口づける。
「俺の前に、お前に触った奴がいるのかと思ったら…」
嫉妬したのだ、と告げる相手に、少し落ち着いたヒル魔は、女とヤッたことがあるのは黙っておこう、と決意する。
「抱いてもいいか?」
優しく髪を撫でられ、胸元のタイに指先が絡む。
「いい加減、この服脱がしてくれんなら」
冬物のセーラー服に吸汗性などない。
下にシャツも何も着ていないから、汗ばんだ体に張りつく硬い生地が、気持ち悪かった。
「誰か来たらどうする?」
ついさっき言った台詞をそのまま返されても、一度覚悟を決めたヒル魔は揺らがなかった。
「構わねえよ、見られても。…クリフ」
甘さを取り戻した声で、本当は周囲に見せつけたかったんだろう、とそっと断罪する。
今日、クリフォードの周りでこんな格好をしていたのはヒル魔だけだ。
誰かに見られたら、たとえヒル魔の顔が見えなくても、その辺の女なんかと見間違うはずがない。
試合の間中、ベンチでデータを取っていた姿を皆が目にしている。
クリフォードとじゃれているところなど、さぞ目立っただろう。
だから。
「俺だって、てめえとなら、いいんだ」
自分に向けられる本気の思いに、今は名前も見かけもフェイクだけれど、心だけは本心を見せたくて。
ヒル魔はもう一度、愛しい相手を呼んだ。
「…クリフ」
それに答えるように、タイの下に隠れているジッパーが静かに降ろされ、制服が脱がされていく。
横開きのタイプと違って、ヒル魔が着せられているセーラー服は前開きなために、ずいぶんあっさり肌蹴られ、床へ落ち
た。ここまで考えてのチョイスだったのか、と勘繰りたくなる手際の良さだ。
さっきまでの行為ですっかり汚れて皺が寄ったスカートも、ズボンに比べれば脱がすのは容易いだろう。
そんなことをぼんやり考えていると、膝にキスが落とされて。
「え?」
濃紺のハイソックスが脱がされ、露わになった白い脚を下へ下へとソックスの後を追うように唇が辿っていく。
そのまま足の甲に口づけられ、あまりに目の前の男に似合わない行為に眼を見開いているヒル魔に、クリフォードがにやり、
と意地悪げに笑ってみせて。
「ぁ、ひゃっ、ん…!ク、クリフ!」
唇はそのまま指先へと降りていき、足の指一本一本を含んでくすぐるように舐め始めた。
焦って半身を起したヒル魔がやめさせようとするが、爪先や指の間を舐められるたびに湧き上がる感覚に翻弄されて、うまく
力が入らない。
器用な指先が土踏まずや膝裏の皮膚の薄いところを撫でる度にぴくん、と反応するのも止められず、小指まで全て舐められた
後には、右足全体がジン、と微細な電流が流れているような痺れた感覚に覆われていた。
左足も同じようにソックスに手をかけられて、イヤイヤをするように首を振るが、優しいふりをした唇が再び潤み始めた目もと
に宥めるような口づけをくれただけで、すぐに同じようにいじめられてしまった。
すっかり両足に力が入らなくなってぐったりと横たわるヒル魔を改めて見下ろすと、白人とは違うしっとりとした質感の白い
体をしていることがわかる。
胸元から首筋、頬が桜色に上気して、潤んだ瞳がどうすればいいかわからずに揺れているのが、たまらなく愛しい気持ちに
させる。
その細い体の中でも一際赤く充血してクリフォードの目を引いたのは、さっき怒りに任せて手酷く責めた胸元だ。
もう一度謝る代わりに、慰めるようにそこに唇を落とす。
「ァッ!…ンッ……」
濡れた感触に驚いたような声が上がるが、抵抗する力はないらしく、咄嗟に伸ばされた手はクリフォードの髪を弱々しく
かき混ぜるだけで、引き剥がす動きにはならない。
そのくせ、なんとか声だけは堪えようとしているらしく、唇を噛みしめて耐えているが、そんな反応では余計に鳴かせたく
なるだけだということは、気づいていないのだろう。
クリフォードはヒル魔の薄い背や腕を優しく撫でていた手を、すっかり反応している下肢に伸ばして刺激すると同時に、
優しく慰撫するように舐めていた乳首を軽く噛んだ。
「ヒ…ッ!ぁ、あぁっ、ヤァ…!」
流石にクリフォードの頭を引き離そうと手に力が籠るが、腰が揺れていては、拒絶にも説得力はなく。
「ッ!?な、に…?」
感じきって体から力が抜けている隙をついて、下肢に伸ばした手をそのままさらに奥まで侵入させ、警戒される前に指を
一本だけ潜りこませることに成功する。
先ほどヒル魔が放ったものや、脚への愛撫に感じて零したもので濡れていた指は、簡単に第二関節まで入ってしまうが、
そこで硬直するような力が加わって、動きを止めた。
「力抜いてろ。酷いことはしねえよ」
そんなことを言われても、入れられた方はたかが指一本にすごい異物感なのだ。はいそうですか、と脱力はできない。
懸命に息を吐いて力を抜こうとしても、少し動かれれば体は強張ってしまう。
「っふ、ぁ…」
ぎゅ、と拳を握って耐えていたヒル魔を見かねたのか、指が抜かれる。
だが、ホッとしたのも束の間、いきなり両足を目一杯折り曲げられ、浮いた腰の下に何かを突っ込まれる。
感触はごわついた布のもので、ヒル魔からは見えないが、床に落としていたセーラー服の上衣を丸めたものだった。
軽く腰が浮きあがり、いきなりの暴挙に震える蕾までクリフォードの目に晒すことになる。
「ヤ、イヤ、だ」
見るな、と言ったところで、聞き入れてもらえるはずもなく、再度の侵入を覚悟して目を閉じたヒル魔を襲ったのは、指では
なく、何か、ぬるりとした感触で。
「え…?アッ、イヤ!ヤダ、やぁ…!」
慎ましく閉じかかっていたソコを濡らされ、開かれては唾液を送りこまれる。
指よりも柔らかく、そのため簡単にナカにまで入ってきた舌が、くちゅくちゅと音をたてて内襞をなぞっていくのがわかって、
とてつもない羞恥に苛まれたヒル魔が悲鳴をあげて嫌がっても、舌の動きは止まらない。
「い、やぁ…つ、き。うそ、つきっ」
だが、そろそろいいか、と指を入れようとしたところに、半泣きの声が降ってきて、慌てて体を起こす。
「ヨウイチ?」
両腕を交差させて顔を覆っているせいで、表情が読み取れない。
「ひど、いこと、は、しないって、」
「痛くはなかっただろう?」
顔を隠している腕をどかすと、見事に朱に染まった目元から、ぽろり、と涙が零れた。
「そ、じゃねぇ、よ。あ、あんな、トコ…なめ、る、とか…」
言い淀んで益々紅潮する頬が、落ち着きなくさ迷う視線が、頼りなく震える白い体が、全身でクリフォードを誘っている
ようにしか、見えない。
普段の、賭けポーカーに興じるときの大胆さやバイクに横乗りするような奔放さからはとても想像がつかない姿は、必死に
訴えるヒル魔の意図と裏腹に、クリフォードの理性を強烈に揺さぶった。
「ひ、んんっ!」
「痛かったら言え。やめてやるよ」
羞恥に泣いたところで、もう止めてはやらないと告げられて、たっぷり濡らされたソコへ今度こそ指が埋めこまれる。
相変わらず異物感は酷いが痛みはなく、は、は、と浅い呼吸で慣れない感覚に耐えていると、ろくに動かされなかったさっき
までと違い、ズルリ、と回転したり、ク、と中で折り曲げられたり、襞を引っ掻くような動きをしたり、と激しくはなかったが
大胆に動かされて、何度も呼吸が止まりそうになる。
「っう…ン、くっ……っきゃ、ぅ!?」
それでもなんとか耐えていたのに、突然、快楽のスイッチを押されたような堪らない感覚に襲われて、咄嗟に悲鳴が止められ
なかった。
「あ、アァッ!や、イヤァ!や、やだっ、クリフ、クリフ…!」
けれど、ヒル魔の悲鳴が聞こえているはずの相手は、動きを止めるどころか、その悲鳴が何かの合図だったとでも言いたげに、
激しい動きで見つけた快楽の腺を擦りあげて刺激してくる。
「クリフ、も、もうっ、ダメ、ダメ、だからっ」
今にも達しそうな刺激に、いつの間にか指が増えていることにも気づかず、腰を擦り寄せるようにしてトドメを願う。
目の前がチカチカして、頭がおかしくなりそうだった。
それなのに、なかなか頂点を極めることができなくて、気が狂う、と思った。
「あ…?」
ぽろぽろと零れる涙も止められずにいると、快感を暴いたのと同じくらい唐突に指が引き抜かれる。
イく寸前で放り出されて、困惑した視線をクリフォードに向けると、ジーンズの前をくつろげる姿が目に入る。
「そ、れ」
ヒル魔の感覚からすれば明らかに規格外の大きさのモノに、不安や恐怖を通り越して、きょとんとしてしまう。
「入んの…?」
ぱちぱちと瞬きを繰り返して見つめれば、
「お前…。もう、止めねえからな」
溜息を吐かれ、露骨な角度に足を広げられて、恫喝するような凄味をきかせて囁かれる。
「…ク、リフ?」
指と舌で散々翻弄されたところに容赦なく熱を押し当てられて、やっと自分の何かが相手を煽ったらしいことを悟るが、
今まさに食われようとしている体勢では遅すぎる。
「ヒッ!ア、ア…ッ!」
想像していたような痛みはなかったが、呼吸を奪うほどの圧迫感は、耐えきれるものではなく。
「クリ、フ。も、無理…、ク、リフ…」
熱い、苦しい、と助けを求めて苦しい息の下から名前を呼ぶのに、動きを止めてくれる気配がない。
「ぁっ?」
ただ、宥めるように前を扱かれて、気が逸れた瞬間に、ぐ、と奥まで踏み込まれてしまう。
「ヨウイチ」
ベンチに爪を立てていた腕を掴まれ、肩に掴まるように促される。
額に、頬に、顔中に何度もキスを落とされて、キスの合間に名前を呼ばれて。
気がつけば圧迫感は薄れ、自分の中がクリフォードに馴染んでいくのがわかる。
ゆっくりと体から強張りが取れるに従って、さっきまで感じていたもどかしい快感が湧きあがってくる。
快楽の腺を圧すような熱の塊に、もじもじと体を動かせば、そんな僅かな動きすら快楽に繋がって、どうすればいいのかわか
らなくなる。
「っぁ、ク、リフ、もう…」
続く言葉は、無理、ではなくて。
もう、動いて。
「ァアアァーッ!は、ぁあっ、あっあっ…!」
声にならないヒル魔の懇願は、持てる忍耐力を総動員してヒル魔が馴染むのを待っていたクリフォードの理性を簡単に崩し、
初めての相手に自制しようとしていた男をあっさりと獰猛な獣に変えてしまう。
「ひぁっ!ん、んー!」
神経を引きずり出されるような凶暴な快感に、身を捩って逃れる仕草をしただけで、噛みつくように口づけられ、折角少し
痺れが取れてきた胸の尖りまで捻るように虐められる。
耳にも首筋にも歯を立てられたような気がするし、体中を熱い手で快楽を引き出すように撫でられたとも思う。
自分が何を口走っているのか、それが英語なのか日本語なのかも定かではなくなった頃。
「っぁ!クリフ、クリフ…!…!!」
掴まれた膝が顔の横につく勢いで体を折り曲げられ、一際奥へ踏み込まれ。
「!っぁ、ぁ…!」
自身を大きな手に包まれて促されるままに、ろくに声も出せず、びくびくと全身を痙攣させて終わりを迎える。
ほぼ同時に体の奥にクリフォードの熱を注がれるのを感じて、直接的な快楽とは違う、初めて感じる満たされたような気持ち
よさに、縋りつく腕を強くしてしまう。
頂点を極めたばかりでぼんやりとした頭はまともに動こうとはせず、離れがたい気持ちのまま、クリフォードにしがみついて
いると、それ以上の力で抱き返されて。
「クリフ…?」
けれど、やんわりと腕を解かれてしまう。
「ここでこれ以上はできねえだろ」
ぽんぽん、と宥めるように頭を撫でられて、そっと繋がりを解かれてもなお、強すぎた快楽のせいか、正常な思考が戻って
こない。
「っん!」
離れる相手を追って手を伸ばしても、体にはうまく力が入らなくて。
引き留めたいのにどうしよう、と不安な気持ちも隠せないでいれば、額に優しく口づけられる。
「どこにも行かねえよ。いいから、そのままじっとしてろ」
体中拭かれて、下肢の後始末までされて、服をー今朝ヒル魔が着てきた男物だーを着せられて、動けるか、と聞かれて。
そのあたりでやっとまともに動くようになった頭は、現状を把握しただけで、居た堪れない思いでショートしそうになる。
恥ずかしさのまま、声も出せずにこくりと頷けば、今日ばかりは危ないから、とバイクにきちんと跨るように言われ、それ
にも黙って従った。
バイクはいつもより緩やかな速度で、まっすぐクリフォードの家へ走る。
「…クリフ?」
送ってくれるのかと思っていたから、信号待ちのときにそっと声をかけると、
「あれで終わるわけねえだろ」
帰ったら続きだ、と言われて。
逃げよう、とか。体がもたない、とか。
やはりまだ、悪魔の頭脳はいつもの回転を取り戻していないのだろう、考えつく前に信号は青に変わり、バイクは走り出した。
・
・
・