賭けの日以来、クリフォードにキスをされる回数が増えた。
否、そもそもキスをする場所が変わった。
頬から唇へ。
賭けをしたあの日、クリフォードの手と唇に追い上げられてわけもわからないまま達かされた日も、いつものように
バイクで送られ、目も合わせられないヒル魔に、クリフォードはいつもと同じようにおやすみの言葉と、キスを。
いつもと違ったのはキスをする場所で。
その日から、おやすみのキスは唇へされるものに変わった。
それだけではなく、二人でいるとき、何気なく額や頬に唇が触れるようになって。
あまりに自然にされるものだから、拒むタイミングも掴めないまま、今に至っている。
結局、俺はこいつのことが好きなんだろうか、とベンチに押し倒されながら考える。
女装させるような奴なのに?
しかもその格好で抱こうとしてるのに?
初めてかとか聞いておいてロッカールームでヤろうとする奴なのに?
否定的に考えても、もう体は拒むために動こうとはしない。
「ヨウイチ」
低い声で呼ばれれば、心のどこかに火が灯るような温かさすら感じる。
思えば、下の名前で呼ばれること自体、今までは無かったのだ。下の名前で呼ばれると、どうしても袂を分かった父を
思い出すから、誰にも許さなかった。
アメリカに来てからは、そういう国だから仕方がない、と思いながらも、どこかで嫌な気持ちにはなっていたはずなのに、
そういえばクリフォードに呼ばれるときは、嫌悪感が無かったことも思い出す。
「…クリフ」
今日の周囲の反応からするに、どうやら、自分だけに許されたらしい呼び方で呼べば、男の顔がほんの少し柔らかい表情を
浮かべるのにも、やっと気づく。
これは、そういうことなんだろうか。
それとも、全部ただの賭けの延長なのか。
「つまんねえこと、考えるな」
降り注ぐキスへの反応が散漫だったのがばれたのか、そんなことを言われて見上げた先には真剣な眼差しがあった。
「好きでもねえ相手に抱かせろなんて言わねえよ」
「でも、」
ただの処理、とか。
「お前な。ついこの前一人でいきやがったのはどこのどいつだ。それじゃ処理の意味がねえだろ」
大体、それならもっと簡単にヤレる女はいくらでもいるんだよ、と言われて、ぽろっと聞きたかった言葉が漏れてしまう。
「じゃあ、俺のことが好きなのか?」
聞かれたクリフォードが、今度は黙り込む。
こいつは今の自分の状況がわかっているのか、と見下ろす先には、さっきまでの遣り取りで紅潮した頬と潤んだ瞳のまま、
小首を傾げて見上げてくるヒル魔の姿がある。押し倒した際に上衣が乱れて白い腹部がチラチラと見え、軽く脚を開かせて
いるせいで太股の奥の際どいところまで見えそうになっているが、そんなことには全く気づいていないらしい。
「my dear.誓いの言葉が必要か?」
やけに幼い反応を面倒に思うどころか、普段とのギャップを感じさせて、余計に愛しい。
額にキスをして言えば、そこだけは達者なままの口が、
「いらね」
可愛くない答えを返す。
やっといつもの調子を取り戻しつつある相手に、愛しさと同じくらい、鳴かせて縋らせてドロドロに溶かしてやりたい、
と嗜虐心が湧き上がってきて、自分でも持て余すその衝動を止められないまま、可愛げのない口を塞ぎにかかった。
「やっ、待って…、ま、ァアッ!」
深い口づけで酸欠状態のヒル魔がぼんやりしているうちに、不埒な手が上衣の裾から忍び込み、芯を持ち始めた乳首を
弄んでいた。
唇は鎖骨へと降りて、骨の形をなぞるように舐めては歯を立てていく。
途端に体中を駆け巡る電流のようなぞくぞくした快感に、慌てて押し返そうとするが、目の前の体はびくともしなかった。
「ッ、クリフ、やだ、やぁっ…」
両の乳首をツン、と尖りきるまで虐められて、ピアスホールの感触を確認するかのように耳たぶをコリコリと甘噛みされて、
どこがどう快楽に繋がっているのかもよくわからないのに、体の中心がどんどん熱くなっていくのがわかる。
未知の快楽を持て余して猶予を願うのに、全く聞き入れてもらえない。
それどころか、告げられたのはとんでもない言葉で。
「ピアス、四つもあけてやがったのか。そんなに好きなら、こっちにもあけてみるか?」
渡米してからヒル魔がピアスをしていたことはない。今初めて気づいた事実に少しイラついた声で、クリフォードが既に
弄られすぎてジンジンと熱を持って疼いている乳首を容赦なく捻りあげた。
「ひゃうぅっ!い、いや、いやぁ…」
言われた内容と与えられた衝撃に、堪え切れず嗚咽が漏れる。
「ハ、嘘をつくな。本当に嫌なら見せてみろよ、てめえのクリット」
泣き出したヒル魔に欠片も容赦せず、クリフォードの手が下着を剥ぎとっていく。
一瞬外気にふれ、すぐにざらりとしたスカートの生地が当たる感触すら、性感を刺激してヒル魔を翻弄する。
「こんだけ涎垂らして、嫌もねえな。そんなに穴あけられてえか?」
先走りを零している様を揶揄されて、必死に脚を閉じようとするが、いつの間にか脚の間にはクリフォードの体があって、
そんな僅かな抵抗すら許されない。
「ちが、ちがう…っひぅ、ん…!」
懸命に首を振って否定していると、すっかり昂ってはしたなく濡れている自身をスカートの生地を巻きこむように扱き
あげられて、悲鳴じみた嬌声を止められない。
ずくり、と重くなった陰嚢まで固い指先で揉みこまれ、今にも達しそうに追い詰められる。
「ッア!?…クリ、フ…?」
もうだめだ、と与えられる刺激に促されるまま吐き出そうとしたところで、突然その快楽を塞き止められた。
「ヨウイチ、一つ教えろ。ちゃんと答えたら、終わらせてやる。このピアスホールは自分でやったのか?」
「え…?,NO…ッアァー!」
どうしてそんなことを言わなければいけないのか、と反論する余裕もなく、快楽の頂点を漂うままの状態から解放されたくて、
策も何も考えずに素直に答えたのに、その答えが気に入らないとばかりに尿道口に爪を立てられる。
「じゃあ、誰が?」
「っ、ふ…、親父だ、よ。も、いい、だろ、答えた、からっ…」
この場合、ヒル魔が言う父親は、ノリエガを指している。
ノリエガを父親だという点以外は嘘ではなかった。中学に上がる前に、わかりやすく凄味を効かせたい、という理由で、
賭けポーカーで負けた彼を脅してやらせたのだ。
涙目で懇願してくるヒル魔に納得したのか、根元に絡んでいた指が緩んで、先ほどまでの暴虐が嘘のように優しく促されて、
やっと極めることを許された。
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