クリフォードの部屋へと戻ると、ずっと大人しかったヒル魔が、おそるおそる、といった様子で切り出してきた。
「なあ、今撤回すれば、別の要求でもかまわねえよ?」
「そうか」
あっさり頷いた相手に、完全に油断していた。
「んぐっ、んー!!」
前触れなく抱きすくめられて、頭と腰をがっちり抱えられた状態では逃げ場もなく、口腔をクリフォードの舌が蹂躙する
に任せるしかない。
キスの経験など片手で数えても余るほどで、咄嗟に抵抗の術も思い浮かばない。口蓋を刺激され、舌を甘噛みされ、
どんどん体から力が抜けていくことを自覚することもできず、解放された時には息も絶え絶えになっていた。
「っは、な、なに…?」
ぜえぜえと整わない息の下でかろうじて疑問を投げかけたヒル魔は、ふらつく体を支えられていることにも気づかず、
クリフォードの腕の中で細い体を震わせている。
「気持ち悪かったか?」
平然としているクリフォードの言葉の意味を考える余裕などない。懸命に息を整えていれば、続きが聞こえてくる。
「レイプは趣味じゃねえ。今のでダメなら撤回してやるよ」
クリフォードはと言えば、ヒル魔がいまだ大人しく腕の中におさまっているのをいいことに、耳元の髪をくすぐったり
背中を撫でたりと好き放題していた。が、いつまでも逃げる様子を見せない相手を不思議に思っていると、きゅ、と胸元
を掴まれるのを感じる。
「お前、そのツラはこの場でヤラれても文句は言えねえぞ」
どうしたのかと少し体を離して見つめれば、頬どころか耳まで赤く染めた相手がクリフォードの服に縋って涙目になって
見上げていた。
散々キスに翻弄されて赤味の増した唇は小さく開き、まるで続きをねだっているかのようだ。
一方、クリフォードの声を聞きながら、ヒル魔には今のキスで気づいたことがあった。
毎晩交わしていたおやすみのキスも、NFLの観戦に夢中になっているときにいつの間にか肩を抱かれていたときも、
何気なく髪を撫でる手も、嫌だったことは一度もなかったということ。
それがこういうこと、なのかはわからなかったが、今のキスも、慣れていなくても快感だとわかる感覚しかなかった。ただ
、どう返事すればいいのかがわからない。それでも、困惑したまま眉根を寄せて、濡れた唇を動かした。
「きも、ち、悪くは、なかっ、た。けど………」
ヒル魔は一生懸命言葉を紡ごうとしてはいたのだが。
いつも強い視線でまっすぐ見つめるくせに、今は耐えられないように俯いて、そのくせ指はクリフォードに縋ったままだ。
それを見つめるクリフォードがどう受け取ったものか。
自分に縋る細い指を上から掴むと、びくり、と大袈裟に体を震わせる。
「けど?気持ち良すぎて困ったか?」
「ンッ!」
もう一度、強い力で引き寄せる。
膝を割って体を密着させれば、わずかにソコが反応し始めているのがわかった。
ひゅ、と息を呑む音が聞こえ、奪った指先にまで熱が回っている。
「おまえ、まさか初めて、か?」
あまりに慣れない反応に、心底意外そうにクリフォードが問うのに、ヒル魔はどう答えたものかと珍しく口ごもっていた。
キスもセックスも、女相手なら経験がないわけではない。一時期、よく行動を共にしていた阿含にチェリーチェリーと散々から
かわれて、出入りしていた界隈でも未経験だと阿含が暴露すると鬱陶しく絡んでくる女がいたりもして、まあ経験ぐらいしてお
くか、と適当に誘ってきた女とやったことはあった。
だが、ほんの数回の経験の中で、こんな感覚になることは一度もなかった。そのときの快感は、まあこんなもんか、という
予想できる範囲に収まっていて。
だから、キス一つでまさか立てなくなるほど感じるなんて、思ってもいなかったのだ。
答えないのを肯定と取ったのか、ため息をついてクリフォードが体を離す。
トン、と体を押されてソファに座り込むとすぐに覆い被さられ、ジーンズの前を簡単に開けられてしまった。
「やっ、なにっ…」
抵抗しようにも、まだ成長期の途中にいるヒル魔と、既に大人の男の体を手に入れたクリフォードではそもそもの人種として
の差もプラスされ、体格があまりに違った。反応が遅かったせいもあって、引き離そうと伸ばした手は、肩に縋る格好になる。
「そのままじゃ帰れねえだろ。抜くだけだ、大人しくしてな」
声は淡々として情欲を感じさせないのに、その手は淫らに陰茎に絡みつき、感じている様を暴きたてる。
「…っは、ん……っやめ、アァッ…!」
長年アメフトのボールを投げ続けて固くなった指先が、巧みに性感を煽って、ヒル魔をどんどん追い詰めていく。
ろくに服も乱されず、核心だけを触れられる即物的な行為のせいで、刺激に溺れきれない冷静な部分が、服も息も乱さない
相手に見られている羞恥に耐え切れず軋む。
「っ、煽るんじゃねえよ。このままヤッちまうぞ」
ヒル魔はとにかく視線から逃れたくて、目の前の肩に顔を埋めてイヤイヤをするように頭を振っただけだったのだが、
されたクリフォードはたまったものではない。
いくらなんでも、賭けは賭けだからと、さっきの今でいきなり初めての相手にフルコースを要求するつもりはないのだ。
そう思って、結構な忍耐でもって余裕ぶってみせているというのに、今のヒル魔の媚態はもっととねだっている以外のなにも
のでもない。
さきほどから首筋に堪えきれない嬌声混じりの吐息が当たり、わざと下肢でぐちゅぐちゅと音を立ててやると、途端に
縋りついてくる力が強くなり、体温が上がるのがわかる。
「クリフォード、っはなせ…もっ、はなっ、ァアッ!…クリフォ、ド…!」
いよいよ余裕が無くなったのか、舌っ足らずに自分の名前を呼ぶ相手の息が苦しそうで、
「クリフ、だ。ヨウイチ」
家族以外には許したことない愛称で呼ぶことを許してしまう。
「ッ、クリフ、も、たのむ、から…!」
肩に、ぎり、と爪が食い込む感触がする。
「何を我慢している」
もうとっくに限界のくせに、必死に堪えている意味がわからない。
「や、だっ、て…おれ、だけっ」
ヒル魔はヒル魔で、一方的に快楽を与えられることに慣れず、なにより快感が強過ぎて、もう英語で話しているのすら、
キツかった。
それでも懸命に堪えていると。
「tut!」
舌打ちが聞こえた、と認識する間もなく、
「〜〜〜〜っっっ!!」
唐突に欲望を粘膜に包まれて、ヒル魔は声も出せずにクリフォードの口の中に放ってしまった。
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