home  >>  novels
20012.5.24-12.31 web clap
Heaven Is A Place On Earth. U
 ヒル魔はちょうどコーヒーを入れたところだった。テーブルには既に朝食が並び、未だ寝腐れているクリフォードを除いて、皆が思い思いに過ごしていた。年に幾度とない、家族全員で過ごす朝。家長のロバートがお気に入りのサイフォンで手ずから淹れたコーヒーはヒル魔の口に大層合い、一口飲む毎に吐息と共に身体の余分な力が抜けていくのが分かる。プレーオフ進出を早々に決めているとはいえ、シーズン中の身の上、かかる緊張は自覚している以上のものであったらしい。
 ほぅ、とまた温まった息を吐き出したところで、クリフォードがのっそりと姿を現した。鼻の詰まった掠れたような低い声で、グモーニン、と一同に声をかける。Tシャツにスウェットというだらしのない格好で、乱れた髪に無精髭のまま、座るヒル魔を後ろから抱き竦め、首筋と頬と口唇にキスを落としていった。
「メリークリスマス、サニー。」
「メリークリスマス、センセー。お早いお目覚めで。…見ての通りテメェ待ちだ。早く席に着きやがれ。」
 誰かを待って、家族全員で食卓を囲むなど、十年前の自分であったなら、想像だに出来ない、違う宇宙の話のような気がしていたが。もう随分と時は流れたのだと、そう思わずには居られない。

 クリフォードは、ヒル魔の隣に行儀良く腰掛ける自分に良く似た少年を椅子から取り上げ、その席に自らがつくと、膝の上に少年を乗せた。
「メリークリスマス、そしてハッピーバースディ、ディヴィッド。サンタのジジイは来ていたか?」
 ディヴィッドは額に落とされるキスを眉を顰めて受け入れながら、メリークリスマス、ダッド、と言葉を返した。
「じじいかどうかは知らねぇが、生憎流石の奇跡者でも、無理な相談だったみたいだな。」
 じじいかどうか、と知らずヒル魔と同じ突込みをするディヴィッドは勿論、それはサンタクロースなどという得体の知れない伝説の人物の仕業などではないと知っている。そしてクリフォードも、息子が彼の存在を信じていない――もとい存在しないことを知っている――ということも承知の上だ。
「そうか…何だったんだ、テメェの欲しいモンは?」
 クリフォードが知らない筈はないと分かっていながらも、ディヴィッドは父親の与太話に付き合った。
「おとうと……弟が欲しいって、書いたんだ。」
 ディヴィッドの横顔を見つめるヒル魔が僅かに目を細め、クリフォードと瞬間視線を交わした。
「そうか。それで、サンタのジジイからは、はっきりと『無理だ』とか何とか、返事があったのか?」
「はぁ?んなもんあるわけないだろ!」
「テメェはまだ六歳でサンタクロース初心者だから知らねぇかもしれねぇが、それが無理な要求のときは『Sorry, boy. It’s impossible.』と返事が入ってるもんだ。それからな……サンタのジジイだって、でかいプレゼント用意すんのは時間が掛かる。覚えておけ。」
「へ……?」
 サンタクロース初心者って何だ!返事が入ってるって何だ!と突っ込むよりもまず、最後の言葉の含む意味にデイヴィッドは迂闊にも撃ち抜かれてしまった。

「サニーと話し合ってな。もう一人、息子を作ることにした。」

 ディヴィッドの、『父親』に瓜二つの顔がじわりと綻んだ。
「ケケケ!テメーの弟だ。派手に喜びやがれ、糞息子。」
 喜び慣れない内気なディヴィッドと、その幼くふっくらとした頬を長く美しい指でツンツンと突くヒル魔に、向かいに座った家長のロバートも満面の笑みになる。それから、場を締めるように手を叩いた。
「……さてと、もういいかな?そろそろ朝ごはんを食べても。私が一番早起きだったんだ。もうおなかペコペコだ。……では、新しく出来る、もう一人の家族に、かんぱ」

 ――その時だ。玄関のベルが鳴り響いたのは。










次話で終わり!
home  >>  novels