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20012.5.24-12.31 web clap
Heaven Is A Place On Earth. I
「すみません、ルイスさん家はこの辺りでしょうか?」

 低い位置から聞こえた高く凛とした声にジョンは振り返った。
 いつもの散歩コースをいつものように愛犬エリックとゆったりと歩く。それは今日のような特別な朝とて同じだった。

「君は…見ない顔だが、ルイスさんの親戚かい?」

 ジョンは皺だらけの顔を更に皺くちゃにして微笑んだ。シルバーフレームの眼鏡の向こう、垂れた目蓋の肉で細くなった目が足元の小さな存在を見つめる。
 少年は、まだほんの子供だった。赤いダウンコートはサイズが合っておらずぶかぶかで、ネイビーのジーンズも、黒のスニーカーも、擦り切れ汚れていた。背中のバックパックと腕に抱いたテディベアがやたら大きくて、少年の耳と鼻、それから露出した指先が、寒さで赤みを帯びていた。

「はい、叔父を訪ねて来たんです。友達の家族の車に乗せてもらってそこまで来たんですが…。」

 ジョンは屈んで少年の瞳を覗き込んだ。
 ルイス家の家長ロバートとは長年の飲み友達で、彼の家族とは懇意にしているが、あそこの家は有名人ばかりだ(勿論彼の得意とする情報操作によって隠匿されているけれども)、いくら強固なセキュリティが何重にも張り巡らされているとはいえ、ジョンの軽率な判断で悪意ある他人を彼らに近づけたくはなかった。この少年がいくら無害そうに見えたとて、どんな人間を背後に置いているか分からないのだから。
 ジョンは少年を見つめた。濡れたように輝く漆黒の瞳は深く澄み、耳まで伸びた同色の髪は朝の光を吸い込み神秘的な煌きを見せていた。少年はひどく聡明そうに、ジョンの目には映った。悪意は感じられず、そこには純粋な期待があるだけだった。そして、ジョンを安心させた要因はもう一つあった。

「そうか、叔父さんを。…確かに、君は彼にとてもよく似ているね。」
 彼のような尖った耳や、根元まで綺麗に染まったブロンドは持たないけれども。
「ルイスさんの家は、一つ先のブロックの二件目だよ。このまま真っ直ぐ行けば右に見える。」
 ジョンは皺くちゃの大きな手で少年の頭を撫でると、立ち上がり道を開けた。気をつけて行っておいで、良いクリスマスを、と付け加えて。

「ありがとう、おじさん。あなたもいいクリスマスを。」

 少年は抱えたテディベアと共にお辞儀をすると、颯爽と去っていった。その後姿に、今まで大人しくしていたエリックも、少年の背を押すようにバウ、と一声鳴いた。










クリスマスの話を夏から載せていたダメ人間、それはらんた。

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