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20012.5.24-12.31 web clap
HEAVEN'S DOOR
 浮上した意識に引き摺られるまま、ヒル魔は重い目蓋をこじ開けた。ぼやけた視界には穏やかな伴侶の姿があり、いつの間にか柔らかく緩むことを覚えたその頬に手を伸ばした。伸ばした手はすぐに取られ、クリフォードの頬と掌に挟まれる。いつの間に自分はこんな糞甘臭い空気に馴染んでしまったのか。

「久しぶりだったからな…飛ばしすぎたか?」

 シーズン中だということもあり、また昨年出来た一人息子の目を気にして(というより教育上如何なものか、と二人して柄にもなく常識なぞというものを考慮してしまった)ということもあり、ここ暫くただ触れて眠るだけの日々が続いていた。
 詰まる所、溜まっていた、ということなのだろう。試合を観がてら家に押し掛けて来たサマーとフェイにディヴィッドの世話を押し付けて、しけ込んだホテルでもう何時間もヤり続けている。久しぶりのセックスに、クリフォードもヒル魔も、歯止めが利かなかったのだ。そして何度目かの絶頂と同時に意識を飛ばした――もとい飛ばされた――のが先刻。
 これほどまでに、己の性欲は大きかったのか、と呆れて毒づく気も起きないほど、ガッツいていた自覚はある。今更それが恥ずかしいとも思わないが。

「どうしたサニー?体が辛いか?」
「いや…糞…変な夢見た。」
「夢?何だまたか?ディヴィッドの時を思い出すな。」

 クリフォードの言葉に、悪魔の皮を剥がしたヒル魔が微笑む。昨年のクリスマス直前――つまりはディヴィッドを養子に迎える直前にも、ヒル魔は『夢』を見ている。予知夢とも取れる夢を。その前後の切ないような温かいようなあれこれを思い出し、ヒル魔はもう片方の手でクリフォードの身体をなぞった。

「クリスマスの朝、ブルックリンの家で」
「ブルックリン?帰省してんのか?」
「多分な。ディヴィッドもいた。前日がちょうどニューヨーク遠征で…無理矢理隙間作って帰ってる感じだったな。」

 それは如何にも有り得そうだ、とクリフォードは微笑んだ。今年は、イブの夜にニューメドウランズスタジアムで試合がある。

「そこに、ガキの頃の俺が来た。」
「何?」
「糞朝っぱらからドアベルが鳴ったから、出て行ったら五歳ぐらいの俺が糞クマのぬいぐるみなんか持って立ってやがって。」
「お前にそっくりな別人なんじゃないのか?過去のサニーが、現在のサニーに会いに来たってのか?」
「サァ…?所詮夢だしな。」
「耳は尖ってたか?」
「そこまでは覚えてねぇ。」
「テメーのそのエルフ耳は目立ってしょうがねーんだ、本当に過去のテメーだったなら、その耳が印象に残らないわけねェだろ?」
「じゃあ」
「つまりソイツは別人だ。何だ、やっぱりまた予知夢じゃねぇのか?」

 クリフォードを見つめたまま考え込むように口を噤んだヒル魔に、クリフォードは湧き出る感情を押し止めることをせずに、そっと口唇を落とした。その胸に。まるで、神聖な儀式のように。

「…サニー、もう一人、ガキを引き取ろう。」

 クリフォードもヒル魔も、同じことを思っていた。それはヒル魔がつい今しがた見た奇妙な夢、のせいでもあるけれども、それよりも以前から、二人の間で議題に上っていたことでもあった。今はサマーとフェイに面倒を見られている(本人にしてみれば、面倒を見られてやっている)一人息子のことを想う。クリスマスは、彼の生誕日でもある。ルイス姓になるまでの五年間、本来ならばクリスマスとバースデイという祝事が重なるその日に、望むものを与えられてこなかったディヴィッドに、「思いつく限りの欲しいものを書け」とのたまったクリフォード。そして父親の言いつけ通りに、十二月に入って早々、ディヴィッドは器用にも自らの手で編みんだニットのストッキングに、サンタクロースへの手紙を投函した。どれほど多くの、そして大規模な望みが書かれているのか、と相好を崩した二人に開かれたそれにはしかし、ただ一言が、添えられているのみだった。―――『弟』―――と。

「ケケケ、ディヴィッドへの糞バースデープレゼントか。」
「いや、クリスマスプレゼントだ。サンタのじじいが運んでくるのさ。」
「じじいかどうかはわかんねぇだろ。…でも、クリスマスまで時間ねぇぞ。シーズン中でゴザイマスし?」
「もちろん、スーパーボウルが終わってからだ。それまでは待ってもらうさ。サンタのじじいもデカいプレゼントは、用意するのに時間が掛かるんだ。」
「どーゆー理屈だよそりゃあ?……けど、まぁ悪くねぇ。」
「メイクラヴの時間は減るかも知れねぇが…サニー、テメェ子供好きだろ?」
「ケケケ、ウザがられるぐらいディヴィッド構い倒してる奴がよく言う。」
「俺達の、家族が増えるんだ。」

 クリフォードの、真面目な顔で言い放ったその一言に、ヒル魔は再び眉を顰めた。

「……テメェは、ホンットに糞甘臭ェな。」

 止め処なく、身体の内を焼き尽くしながら溢れ出てくる想いを、乱暴な甘い口付けで互いの胸に流し込んだ。










ルイス夫妻に子供が増えるお話。予知夢再び!
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