一月六日夕刻、映画『SPYダマン2』の全世界同時公開を前に、ここハリウッド、チャイニーズ・シアターにてワールドプレミア試写会が行われていた。大勢の記者達が敷かれたレッド・カーペットを取り囲み、前作よりお馴染みの出演者達を始め、各界著名人が会場に到着するや否やカメラのフラッシュとマイクに捕まっていた。苦情が来そうな程の大音量で人気ロックバンドのギターのディストーションとハスキーなシャウトがSPYダマンのテーマを奏でる。響き渡るそのBGMに負けまいと記者達が声を張り上げセレブリティに質問を浴びせる。運良くこのワールドプレミアのチケットを当ててしまった一般人達が、雰囲気に呑まれ縮こまっていた。
その入り口正面のカーペットの上、当たるフラッシュにキラキラと体を輝かせながら甘いマスクを更に甘く崩してインタビューに答えるバッド・ウォーカーの姿があった。バッドは前作から引き続き今回も主演で、ハリウッドスターとして全世界に名が通っている今では、その注目度も前作の比ではなかった。加えて、今日はバッド以外の五芒星四人も招待されている。当然バッドにマイクを向けるレポーターの中には、映画とは全く関係の無いクリフォードの熱愛報道の真相を尋ねてくる者も居て、バッドはその度に「後で本人が来るから本人にきいてくれ」とかわさなければならないことにいい加減辟易していた。
そんな中、バッドを取り囲んでいた記者達が一斉に、けれど静かに他所へ移動し始めたのを見て、とうとう来たか、とバッドは大げさに肩を竦め、太く下がった眉をひょいと上げて見せた。
果たして派手なランボルギーニから降車したのは、話題の人、リサ・ダグラスだった。パートナーの手に掴まり立ち上がると、スワロフスキーが全面に散りばめられたハイカラーのゴールドドレスがパッと目を引いた。リサが身体の向きを変えると、ショートドレスのバックが腰まで開いているのが見える。細い脚を惜しげもなく曝し、足元にはドレスと同色のベルトサンダル。肩を出し、背を出し、脚を曝し。ピッタリとしたドレスはリサの身体の曲線を強調し、アップにしたウェーブの掛かったブラウンヘアが女の色気を更に引き立てていた。
どこからともなく、ほう、という溜息が漏れる。しかし、バッドはその腹部が目に付いた。本人の言うように、妊娠しているらしいその下腹部は、気をつけて見てみれば僅かに前に張り出している。女としては美しいかもしれないが、妊婦としてその格好はどうだ。寒々しいにも程があるし、サンダルが十pは優に超えるだろうピンヒールなのも頂けない。
「ねぇバッド、いくらスタイルがいいからって…妊娠してるのにちょっと薄着過ぎない?アレ…。見てるこっちが寒くなってくる。」
いつの間にか隣に来ていたパンサーがバッドに小さく告げると、ちょうどリサのパートナーが彼女の肩に、ブルーフォックスファーが襟にあしらわれた白のアンゴラコートを差し出した。
「…お腹の子に愛情の欠片も無いんだろ。」
それを全世界に知らしめてるようなもんだな、言いながら戻した視線の先では、憮然としたリサがインタビューを受けていた。それもその筈、残念なことに――常に新鮮なスクープを求める芸能記者達にとって、それが果たして本当に残念なことであったかは分からないが――、カノジョをエスコートした男性は、どんなに見目の良い丈夫であっても、クリフォードではないのだから。
「リサ、今日はクリフォードと一緒じゃないのかい?確か今日は彼も招待されている筈だけど?」
これは面白いことになった、と内心興奮しているのが明らかなリポーターの質問に、リサは真っ赤なルージュと力強く引かれたアイブロウを思い切り歪めて小さく舌打ちした。質問に答える気はない、と言うように、ふん、と鼻息荒く顔を背け、隣の男のエスコートを待たずズンズンと歩き出した。
おお、とざわめきが起こったのはその時だ。ごった返すチャイニーズ・シアターの前に、一際目立つ真っ白なリモがストレッチタイプの長い車体を滑らかに滑り込ませてきた。ガシャーン、という破壊音のようなドラムとギターの音が彩るように巨大なスピーカーから地を震わせる。
「…な、なんか来た…。」
「あぁ、観客を喜ばせるのも選手の務めだしな。」
「いや、それ、なんか違うと思う…。」
「始まるぞ――ショータイムだ。」
まず運転席に乗っていた二人のSPが降り後部扉の前に立つ。内一人が厳つい仕草で後部ドアを開くと、中からスラリと長い足が伸びた。マスコミも野次馬も、全世界がその登場を待ち望んでいた男は、堂々とハリウッドの地に降り立った。
黒のサイドゴアブーツにシルクのブラックタキシード、胸元を大きく開けたYシャツは光の加減によって虎柄が浮かび上がるアッシュで、覗く首筋にはダイヤがふんだんに埋め込まれたシルバーのチョーカーが二重に巻かれていた。そして肩に羽織られただけのロングコートは最高級のウールで、襟と縁に惜しげもなくロシアンセーブルがあしらわれている。緩く立てられ後に流された持ち前のブロンドは、百獣の王、獅子の鬣。一見全身を黒に固めた落ち着いた身装だが、滲み出る王者の輝きは止めようもなく、見る者全てに息を呑ませた。
ベンツから降りた途端焚かれる無数のフラッシュを一身に集め、その男は泰然と立っていた。クリフォード・D・ルイス。BCSオレンジボウルMVPにして女優リサ・ダグラスとの熱愛を報じられている渦中の人物であった。
クリフォードはつい先日迄の余裕の無い怒りに満ちた表情ではなく、まるで記者達の視線がそのまま自身の覇気になるとでも言うように、王者然として車の反対側に回り込むと、恭しく扉を開けた。
あのクリフォードが、女性をエスコートしている。それだけでも空前のスクープだというのに、況して相手は熱愛だ極秘恋愛だと騒がれているリサではない。俄然辺りは色めき立った。事態の展開を待ちわびた芸能リポーター等だけでなく、周囲に居合わせたセレブリティ達も――勿論既に到着していたバッドもパンサーも――これは面白いことになりそうだと、インタビューを一時放棄してその白いリムジンを見つめていた。
そしてクリフォードによって開かれた扉からは、ハイヒールの黒いブーツの先が覗いた。徐々に車の外に伸ばされる足は長く、腿の半ば程までレースアップの黒いレザーに覆われていた。
優しく伸ばされたクリフォードの手に、車の中から伸びた左手がたおやかに添えられた。細く長い指がキラキラと光るのは、焚かれるフラッシュのせいでもなく、ストーンでゴージャスに紋様が施されたシルバーのネイルのせいでもなく、薬指に光るシンプルなリングのせいだろう。手を取られ降り立った獅子の伴侶は、後に『東洋の神秘の具現』と騒がれる、すっと背の高いオリエンタル・ビューティーであった。
レザーのサイハイブーツの上には同じく黒のラップスカートがショート丈で巻かれ、ブーツとの間に西洋人とは違った白く肌理の細かい肌を露出させていた。その驚く程長い脚は決して細くはないが質の良い筋肉に覆われた美しさで、その健康的な脚線美はアスリートのパートナーとしては相応しいように見えた。
トップスはシンプルなアッシュのタートルニットで、首元にはクリフォードと揃いのダイヤのチョーカー。アウターには同じく揃いのロシアンセーブルのポンチョを羽織っていた。
薄い唇はヌーディーなピンクで清楚に瑞々しく。対照的に目元はその鋭さを強調するように目尻に長く上向きの黒のアイライナーが引かれ、縁取るように何色ものアイカラーが上品なグラデーションを作りダークアイズを彩っていた。上下の睫は濃く長くグラマラスに。小さな顔の脇からはちらちらと、シルバーのピアスがシャンデリアのように輝きを覗かせていた。
しかし何より目を引くのは、腰の辺りまで伸びた艶やかに光る黒髪だった。前髪は眉の下、双眼の少し上ぐらいのフルバングで、背で切り揃えられた後ろ髪と共に、溜息の出る直線美を織り成していた。
女性にしては高すぎる背に、丸みのない身体。逞しいと言っていい程の体躯。しかし体型はポンチョの女性らしい柔らかなラインに隠されユニセックスな雰囲気に、高すぎる背は、隣に長身のクリフォードが並んでみればむしろそれが自然なことのように思えた。
彼女はカメラのフラッシュを眩しそうに目を細め、何度か瞬きをすると、ふんわりと花が綻んだように笑い、差し出されたクリフォードの右腕に手を掛けた。二人並び立つ姿に、飽きるぐらい焚かれた筈のフラッシュがまた数を増したようだった。同系の色彩に、同じロシアンセーブルのファーを纏い、揃いのチョーカーまで身に着けた二人は、何のことはない、言葉なくして『番』であると知らしめているだけだ。
ヒュウ、と口笛を吹いたのはバッドで、「クリフォードの奴、あんな美人なガールフレンドが居たなんて、ちょっとぐらい教えてくれても良いよなぁ。」と隣のパンサーに同意を求めた。
するとパンサーはぎょっとした顔で、
「ば、ば、バッド…?アレ、分かんないの…?」
「ハ?何が?」
「い、いや…分からないなら…Ignorance is bliss.(知らぬが仏)って言うし…。」
「何言ってんだパンサーお前?」
「あ!ほら、インタビュー始まったよ!」
人気ハリウッドスター、バッド・ウォーカーの新作主演映画の完成披露試写会であるのに、当の主演男優を差し置いて…等と言う者は最早誰も居なかった。他の誰でもない当人がクリフォードの友人で今回の騒動で少なからず迷惑を被ったという理由もあり、またバッド自身この熱愛報道がどこに帰着するのか気になって仕方がないという理由もあった。ともあれ、本来なら今頃記者達に取り囲まれている筈のバッドも、大人しくクリフォード等のインタビューに耳を傾けることが出来たということだ。
「質問は後で受け付ける。まずは黙って聞いていろ。…単刀直入に結論だけ言う。何度も言うようにリサとは何でもない。付き合ってなどいないし、あの写真を撮られた時が初対面だ。ましてガキなんか、作れるわけがない。もしまだリサの腹のガキが俺の子だと言い張るなら、DNA鑑定をしたっていい。必ず俺の言うことが正しいと証明されるだろう。」
話し出すクリフォードは、これ迄のインタビューとは違い憤怒した様子も見せず落ち着いていたが、言葉と視線は反論を許さない、強者のそれであった。
「今回の件だけじゃなく、今までの俺の交際に関する報道は全て嘘っぱちだ。なぜなら、俺は三年前からこちらの女性と付き合っているからだ。日本とアメリカで離れてはいるが、この通り婚約もしている。」
そう言い放ち自らの左手を挙げて見せるクリフォードに、隣の彼女の笑顔が一瞬強張り、目が見開かれたのをパンサーは見逃さなかった。
それ程付き合いが長いわけではないが、本能的に分かる。クリフォードは、外堀から埋める人間だ。周到に罠を仕掛けて、そうと気づいた時には一つの逃げ道もない、というように。今の様子から察するに、恐らく『彼女』の方は婚約などという頭は全く無かったのではないかと思う。要するに、本人達の間での話し合いやらプロポーズやら返事やらを全部すっ飛ばして、いきなり全世界に婚約宣言をされたのだ。勝手に。一方的に。悪魔の策士やらトリックスターやらの異名をとる『彼女』も、まんまと不敗の勝負師に嵌められたのだろう。先程の『彼女』の表情はまさに、してやられた、というものだった。
「今回のことでは、彼女を深く傷つけてしまったこと、とても不甲斐なく思っている。俺ははじめからカムアウトしたかったが、彼女は一般人で、注目されるのは望まないから控えていた。だが、どっかの馬鹿共が五月蝿いからな、無理を言って出てきてもらった。これ以上今回の件をぎゃあぎゃあ騒ぎ立てるようなら…もしくは、今後彼女のことを嗅ぎ回って精神的負担を負わせるようなら、訴訟も辞さない。覚えておけ。」
どこまでも本気の氷の双眸に、彼を囲んでいたリポーターやカメラマン達は足が竦むのを止められなかった。決して脅迫されたわけではなく、ただ淡々と意思を述べられただけであるのに、だ。しかしその脅えも長くは続かず、この女性がこれ程の男を本気にさせたのかと、彼等の興味はすぐに隣に立つ彼女に向けられたのだった。
「ただし、今この時間だけ質問に答える。質問は三人までだ。」
クリフォードが言うや否や、マイクは彼女に集中した。
「お名前、ご出身、ご年齢、ご職業は?」
「アヤです。日本人で、クリフより一つ年下の二十歳で、日本の大学に通っています。」
はにかむ声は女性にしては低めであったが、心地良くハスキーで、露出の少ない装いとは逆に甘い色香をたっぷりと含んでいた。丁寧に紡がれた流暢なスタンダード・イングリッシュもリポーター陣に好感を与えた。更に彼等の興味を引いたのは、『クリフ』という親しげな呼び名。クリフォードは、一番近しい関係であろう五芒星の他の四人にすら、ニックネームで呼ぶことを許してはいない。するとどうやらこのアヤという女性は、五芒星達よりもクリフォードに近い位置に居るらしい。
「左手の指輪は、クリフォードからのプレゼント?今日のファッションも?」
賢い、と言うより小賢しい記者達は、質問は三人まで、というクリフォードの言葉を忠実に守るべく、一人につき複数の質問を投げかけて行った。
「はい、この指輪はクリフに頂きました。彼の指輪も私が…と言いたいところなんですが、私はまだ学生でそこまでの収入はないので、私からはまた改めてプレゼントする予定です。それから今日の服については、クリスティアーノ・バッティアネッリさんに二人合わせてコーディネートしていただきました。ドンが紹介してくれたんです。」
アヤが挙げたのは、ニューヨーク在住のイタリア系スタイリストの名だった。それも、何本ものドラマやハリウッド映画のファッション・コーディネーターを務める程著名な。しかも、どうやら大統領子息であるドナルド・オバーマンの紹介らしい。ドンも五芒星の一人であり、クリフォードの友人でもあるのだから何ら不思議は無いのだが、アヤ本人の口からドンの名が出たことで、ドンもアヤと面識があり、知り合いのスタイリストを彼女のために――もといクリフォードと彼女のために――手ずから紹介する程彼女のことも気に入っているのだと暗に示された訳で、リポーター達は彼女に対する認識を改めざるを得なかった。
「何だよドンも知ってたのか。何で俺だけ仲間はずれなんだよ。この試写会だって俺が招待してやったのに。ひでぇよな、パンサー?」
「い、いや〜なんでっていうか、そもそもバッドも知ってる人だし今更紹介もないっていうか、多分紹介されてもビックリするだけっていうか……とにかく!今はバッドもあの子を知ってる振りしてた方がいいよ!あとでクリフォードが説明してくれると思うから!」
「???何だそれ?さっきから変だぞパンサー!何か隠してんだろ!」
「しっ、しーっ、シィーっ!黙って!周りに聞こえたらマズいって!」
パンサーは飛び付くようにバッドの口を塞いだ。幸いにもこの呑気な会話を聞く者は居なかったが、冷や汗が出っぱなしだ。どうも五芒星には普通の感覚を持つ者がいない気がする。自分は、自分だけは紛うことなき一般人だと思い込んでいるパンサーは心の内で嘆いた。その間にも、張り詰めたテンションのインタビューは続く。
「では最後に、今回の騒動について、君はどう思う?」
その時のアヤの微笑が、来た来た、という悪魔の薄笑いに見えたのはパンサーだけだろうか。
「…今回のことは、大変残念に思います。クリフはとても誠実で素晴らしい男性ですので、浮気に関しては全く疑っていなかったのですが、報道を見聞きした皆様はそうは思わないんじゃないか、って…そのことがとても心配でした。日本とアメリカだと、そうそう会えるものでもないので、あの報道からはずっと、つらい日々でした。でも今皆さんの前でこうして二人並ぶことが出来て、とても嬉しく思っています。クリフも、すごく私を気遣ってくれて、辛い思いをさせたお詫びに、って一つ私に約束してくれたんです。」
感情の動きを表すように、アヤの胸の前で上下左右する手指の動きが、どうしても試合中ベンチとやり取りする暗号に見えてしまうのは、パンサーの錯覚だろうか。そして、パンサーの懸念空しく、爆弾は投下されたのだ。
「フットボールの、ユース・ワールドカップ再開に尽力すると。」
その瞬間、本当に瞬間ではあるが、クリフォードの表情が消えたのを、パンサーは見逃さなかった。それは先刻アヤが見せた表情と同じ、『そんな話は聞いていない』という顔だ。
「私は元々フットボールが大好きなんです――だからといって、それがクリフとお付き合いしている理由ではないのですけれど…。クリフと出会ったのも、三年前にニューヨークで開催されたユース・ワールドカップを私が観戦に来ていたことがきっかけで…。だから私たちにとって、ワールドカップには特別な思い入れがあるんです。それで、私が、もう一度クリフがワールドカップで活躍するところが見たいと…現在も行われている年齢制限のないワールドカップとは別に、年齢制限を設けたユースの…と言っても勿論、クリフが出場できなければ意味が無いので、前回大会よりも引き上げて、年齢は二十一歳以下まで、参加国も前回大会の十六カ国以上になるように、大規模に。…我侭だとは分かっているのですが、そうお願いしました。」
ワオ、何てことだ、これはすごい、驚きだ、とそこかしこから歓声が上がる。うわぁ、なんか物凄いことになっちゃった…と冷や汗をかきながらも、それってプロは参加できないのかなぁ?と己の出場の可否を心配するパンサーは、やはり一般人である前にフットボウラーなのだった。
「国際行事ですので、口では簡単に言っていても実際開催するのはとても難しいことだと分かっています。加えて、本国アメリカ以外では、まだまだ認知度の低いスポーツでもあります。けれど、クリフはそういった広報活動、普及活動にも尽力すると、そう約束してくれました。課題はたくさんありますが、彼は私との約束を一度も違えたことがないので、今回も約束を守ってくれると、そう信じています。」
宝石でも金銭でもないなんて、なんて健気で可愛らしいおねだりなんだろう、インタビューを野次馬していた人々――といっても各界のセレブリティだが――が口々に囁くのを耳にして、いやいやちょっと待って感心してる場合じゃないっしょ、とパンサーは青くなった。
たった今全世界のアメフト界を動かす重大発表がなされたわけですけど?それのどこがケナゲでカワイイ……?そもそも、あのクリフォードのガールフレンド――アヤのことを『ガール』と呼んでいいものかパンサーは迷う――がそんな殊勝なわけがないっしょ……!だってほら、言うじゃないか、Birds of a feather flock together.(類は友を呼ぶ)って。
「へぇ面白いじゃん。じゃあ俺も出るかな。」
口を覆っていたパンサーの手を外し、隣で真剣に呟くハリウッドスターは、確か次の仕事ももう決まっているとそう言ってはいなかったか。なんなのこれもうどうしよう、知ってたけど、分かってはいたけど!君のところのキャプテンって怖いよね、セナ。あ、今はセナは違うチームだったっけ。
呆然とするパンサーを他所に、件の二人は夥しい数のカメラを前に、仲睦まじげに戯れていた。クリフォードがアヤを腕の中に引き寄せ、頬に軽いキスを送り、左手を絡めてリングを重ねる。そして慇懃に取った左手に接吻を送るクリフォードの表情が和らいだのは、気のせいではないだろう。見ているだけで恥ずかしくなって俯いたパンサーを、バッドが笑った。
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