もう何時間経ったのか。
ライスボウルを終えたばかりで、体力の限界はとうに迎えていた筈なのに、狂ったように何度も求めては絶頂を迎えた。
やっている途中でヒル魔が腹を下しては何回も続けられない、という最低な理由で――尤も、はじめの内はヒル魔もぶっ飛んでいたので何をされても分からず、善がっただけだったろうが――射精の時だけ外に出してヒル魔の身体に掛けるものだから、二人合わせて複数回達したときには既にヒル魔の身体は二人分の体液でぐちょぐちょに汚れてしまっていた。
その汚れを二人シャワーで落とし、流石に今日は打ち止めだと漸く眠りにつこうとしたヒル魔を、「後ろだけでもイケんだろ?」と、燻る快楽の火に酸素を送り込むような愛撫でクリフォードが再びセックスに引き摺り戻したのが先刻。そして今、流されるままヒル魔は体内にクリフォードを埋め、向かい合って座る姿勢でクリフォードにしがみ付いていた。
「サニー」
囁く声は何処までも甘く、泉のように優しく湧き出る愉楽で身を痺れさせる。クリフォードの腕に閉じ込められながら、ヒル魔はその薄く開かれた口唇に、吸い込まれるように吸い付いてやる。合間に吸い込む空気まで噎せ返る程に甘くて、肺の中や、吸い込んだ酸素が行き渡る指先や脳味噌まで、どろどろに溶けていく。中に入っているクリフォードの中心はピクリとも動かないのに、ヒル魔の奥は勝手に収縮を始め、クリフォードの舌に呼応するようにきゅうきゅうと締め付けてしまう。その度に漏れるクリフォードの低い喘ぎと自分の鼻に抜ける高い声に、視界も自分と相手の境界も、何もかも曖昧になる。
ただ繋がっているだけなのに、身体の奥から受け止めきれない官能の渦が湧き上がってくるのだ。後だけで極めた絶頂は射精の快楽など比べ物にならない程で、治まっている筈の今尚、貫かれている中から押し出されるように、勝手に涙や涎やカウパー液が垂れ流れてくる。こんなに緩やかであるのに発狂しそうな程の悦楽で、けれど合わさる口唇や触れ合う胸、腰と背に回された屈強な腕に現実に引き戻され、得体の知れない安堵を与えられる。
「…何デスカ?センセー?」
応えとしては、間が空き過ぎていた。クリフォードは普段からは想像もつかない程相好を崩して、ヒル魔はそんなクリフォードに、「糞ニヤニヤしてんな。」と悪態を吐いたが、そんな時に限ってタイミングよくクリフォードが腰を前後させるので、声は最後甘えたように掠れた。仕返しとばかりに、クリフォードの、いつもよりも大分落ち着いている金糸に指を入れてクシャクシャに掻き乱し、質の良い筋肉で覆われた首筋に鋭い歯列を剥き出して噛み付いてやった。痛い筈であるのに、クリフォードは嬉しそうにクツクツと笑うばかりで、ヒル魔は面白くなく、「このドM野郎が。」とまた噛み付いた。
「サニー」
話し出す声は、先程より鋭さを含んでいた。
「俺を、もっと欲しがれ。もっと必要としろ。」
一人でぐだぐだ悩んでねえで、とっとと俺に電話すりゃあよかったんだ、と。回された腕に、力が込められた。
今その話を持ち出さなくても、と思うが、逆に何度も身体を合わせた今だからこそ、落ち着いて話せることなのかも知れなかった。
「んっ……ッ、そういう問題じゃねぇだろ…っ。これは、俺自身の問題だ。テメェに電話して、答え貰って、宥めすかされて……ぁ…ぃ、意味ねぇんだよ、それじゃあ。」
言葉を返す間も、緩く突き上げられ、耳の後を舐められて、尖る声も熱く濡れた。
「勝手だな。」
「っぉ互い、様だろ。」
クリフォードは身体を少し離し、意思の篭った強い碧眼でヒル魔の黒い瞳を覗き込んだ。
「お前が電話に出ない間、俺がどんな思いだったか、一瞬でも考えたか?」
先に言葉に詰まったのは、ヒル魔の方だった。
「だからテメェはサニーなんだよ。…お前が俺に甘えたくなくても、俺はお前に甘えたかった。」
言うとクリフォードはきつくヒル魔を抱き締めて、身体を反転させ再びヒル魔をベッドに押し倒した。
「…そもそも、こそこそ隠れて何かすんのは性に合わねぇ。」
ぎゅうぎゅうと音がする程抱き締められ最奥まで腰を強く押し込まれて、ヒル魔の高い声が鼻から抜けた。そのまま頭を下げて胸まで辿り着いたクリフォードに、ピクンと勃ち上がった胸の尖りを舌で押し潰されて、泣き声のような嬌声が漏れた。そしてまた顔を上げたクリフォードは、腹を決めた男の顔をしていた。
「サニー、カムアウトしよう。」
一瞬、ヒル魔は何を言われたのか分からなかった。馬鹿どころの騒ぎではない。イカレている。
「冗談」
「真面目な話だ。」
即座に否定されたヒル魔は、熱に溺れながらも心底嫌そうな顔をして見せた。
クリフォードとて、分かっている筈だ。全てを暴露して被害を被るのはヒル魔の方だと。ヒル魔が実力で勝ち得てきたもの、あるいはこれから勝ち得ていくだろうもの全てを、「あのクリフォードの恋人なのだから」の一言で片付けられるのだ。それが事実でなくとも、風評というものはしばしば何をも凌駕する力を持つものだ。クリフォードもヒル魔も、そういった噂やプロパガンダの力を正しく理解し利用してきた。その分その恐ろしさもまた、見に染みて分かっている。今回のリサの件が良い例だ。頭の弱い勘違いした虫達を利用して、いいようにしてやられた。
確かに特定の恋人の存在を明らかにすれば虫除けにはなるかもしれないが、それがお互いにとってそこまでの利益になるとは思えない。
「…何企んでやがる?」
ヒル魔が真意を問うようにクリフォードの瞳を覗き込むと、クリフォードは片頬を上げ、人の悪い笑みを浮かべた。
「企むたぁ人聞きが悪いな。…サニー、取引だ。」
そしてクリフォードは、ここへ来る途中、機上で練り上げた企てをヒル魔に語って聞かせた。器用にも、ヒル魔の全身に愛撫を施しながら。
初めて生でフットボールの試合を見る子供のようにはしゃいで懸命に作戦を打ち明けるクリフォードの姿に、こんなガキっぽい表情も出来るんだな、とヒル魔は可笑しくなった。そしてまたよくこんな状況でも萎えずに居られるものだと呆れ、けれどその熱棒を秘所で締め付けながら。
一通りクリフォードの話を聞いたヒル魔は、いつもの悪魔の笑みを、いつもより何倍も妖艶に浮かべた。
「…で?俺にメリットは?」
「ファイティング・アイリッシュとウィザーズの合同サマーキャンプ、国際交流試合。場所はアメリカだ。」
「へぇ?…確かカレッジ・フットボールの現役選手は国際試合を禁止されてるんじゃなかったか?元々ノートルダムといがみ合ってるNCAA(全米大学体育協会)を動か、……は、んっ…っぃ、糞!話してる時に動くな!」
「問題ないな。」
「ケケケ……く、ぁ…ア!…ハッ、持つべきものは、大統領子息とハリウッドスターのオトモダチ?」
「気に入ったろ?」
「んー…滞在費、足代、メディアコントロールぐらいはしてもらわねぇと、慰謝料には足りねぇな。」
「テメェっ…!分かってんだろ、あの女とは何ともねぇ。お前と付き合うようになってからお前以外の奴とは寝てねぇよ。むしろ今回の件では俺が慰謝料請求したいぐらいだ。」
クチュ、とローション塗れの性器を弄られて、ヒル魔が綺麗に身を捩らせた。もう白濁は出なくとも、そこが快感の引き金であることに変わりはない。
「ゃ、ぁ……っちにしろ、俺に責はねぇし……つか、マジで俺以外とやってねぇの?全然?」
「そうだっつってんだろ。何度も言わせんな。なんで好き好んでこの俺がマスターベーションなんかしなきゃいけねぇんだ。お前いいから早くアメリカ来い。」
「うっわマジかよありえねー!センセーの恋人がその黄金の右手とはな。ケーケケ…っぁ!ぁああッ…ん、ぅんーっ…!糞っ!」
「…オイ、俺は今熱烈な告白をしているつもりなんだが?」
白の海で快楽に溺れながらもいつまでも笑い止まないヒル魔を前に、身体で分からせる必要があるな、とクリフォードは本格的に可愛がってやることにした。
「言うだろ?Honesty is the best policy.(正直は最善の策)だ。」
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