シャワーすら浴びずに出てきたんだ、汗ぐらい流させろ。というヒル魔の要求を気持ち悪いぐらいあっさり呑んだ男は、案の定と言うか嫌な予感通りと言うか、ヒル魔の必死の抵抗をものともせず――コルトM1900で応戦したというのに。しかもあの残念な鬘と髭を着けたままだ――バスルームに上がり込んで来ていそいそと準備という名の前戯を施した。そしてキングサイズのベッドへと場所を移した今、男は飽きもせずヒル魔の胸の尖りばかりを弄くっている。
「ハッ…ぁ…だ、から…それ、くすぐっ…ぇっつって、ん…」
変装のための付け髭を未だ取らずにいるものだから、ヒル魔の肌をクリフォードの唇が辿る度、常とは違う柔らかな感覚が駆け抜ける。濡れると面倒だと、バスルームに押し入って来た際にウィッグはすぐ外したくせに。全く悪趣味にも程がある。しかも、鬘と髭は茶毛で揃えてあるが、鬘を取ってしまった今、髪はブロンド、髭はブラウンというアンバランスさで、センスも何もあったものではない。
「でもそのくすぐってぇのが気持ちいいんだろ?いつもより可愛いぜ、サニー。」
「テメ…ッ、形から入って、中身までジジイになりやがったか…ん、ぅぁっ」
不意に性器への直接的な愛撫を施されて、ヒル魔はビクリと身体を浮かせた。目の前の男はそれにクツクツと楽しそうに笑い、思う存分吸い付き赤く熟れた胸から漸く顔を上げると、今度は伸び上がってヒル魔の唇に吸い付いてきた。舌を絡め合い、角度を変え何度も貪り唾液を交わして。その間も上唇や口端に撫でるように触れる違和感。ヒル魔はどうしてもその違和感に耐えられず――というか、何故今になっても外さないのか!と怒りすら込み上げてきて――息をするため口唇を離したタイミングで、クリフォードの付け髭を外してやった。ビリッ、と音がする程勢いよく。
「ッ!…サニー、テメェ…!」
付け髭は透明な粘着テープで肌に貼り付けるタイプだ。いかにクリフォードといえど、流石に一息に剥がされたのは効いたのか、口元を押さえて涙目になった。
「ケケケ、いいザマですねセンセー。」
ヒル魔がケラケラと笑うと、仕返しとばかりに、固くなった性器を口に含まれた。
「ッハ…ぁ!」
両手で足を開かれ、じゅぶじゅぶと、根元まで。咄嗟にクリフォードを引き離そうと伸びた手は、けれど目的を果たすことなく、今は濡れて落ち着いているブロンドに添えられただけだった。
先端を広げるように舐められ、頬の内側で亀頭を擦られ、ヒル魔は堪らず腰を浮かせた。クリフォードの頭に添えるだけだった手は、髪に差し入れられ、もっととねだるように腰に押さえつけていた。
「…ぁ、ふ…ぅく、ん……」
漏れ聞こえる声は小さく、ほとんどひゅうひゅうという呼吸音しか聞こえなかったが、それでも十二分にクリフォードの雄を刺激した。色素の薄いヒル魔の性器は、快感を遣り過ごそうとする本人の意思とは逆に悦びにピクピクと震え、透明な液を溢してはクリフォードの口内を潤した。
「……っ、アッ、ィク、せんせ…っ」
限界を訴えたヒル魔に、クリフォードは貪っていた性器を離した。くちゅ、と腰骨に接吻を落とすと、枕元に備えていたローションを手に取る。そのまま右手で器用に蓋を開け、左手でヒル魔の足を持ち上げると、仰向けに暴かれたヒル魔の性器と後孔に、たっぷりとジェルを垂らした。その冷たさに、ん、と鼻にかかった息が漏れ、宥めるように耳を噛まれ更に声が漏れた。張り詰めた性器に感じる滑りに、遂に大きく声を上げると、
「もっと声出せ。」
と濡れた耳に吹き込まれ、脳に直接欲に塗れたクリフォードの声が響いた。
直後感じた後孔への強烈な異物感に、しかしヒル魔は安堵の息を溢した。身体は気持ちよりずっと正直で、頭がどれだけ抵抗しても、全身でクリフォードを求めていたのだ。
欲しかった。寂しかった。
認めてしまえばこんなにも簡単で、単純なことだ。
「ン、ぁっ!」
先程まで浴室で入念に解されていたそこは、深く切り揃えられた爪の太く長い指を二本、易々と呑みこんだ。奥で指先を曲げられ、狙ったようにそこを抉られると、尾?骨から背骨までを蕩かすような快感が走った。次いでグリグリと孔を広げるように二本揃えた指を回され、同時にジェルで濡れた性器を扱かれて、ヒル魔は高く啼いた。
どうせどんなに堪えたところで、目の前の男は自分以上に自分の身体を知っているのだ。我慢することさえ馬鹿らしかった。
「ぃ、イイっ…せ、んせ……ぁ、アッ…も、っと…」
ヒル魔はクリフォードが欲しくて、クリフォードもヒル魔が欲しくて、お互いに求められたくて。ならばただ、身体が求めるように、求め合えばいい。
とろんと視点の定まらないまま、ヒル魔は後孔を押し広げるクリフォードの手首を掴み、更に奥まで突き込んだ。
「っくぁぁあっ!」
もうこれ以上無い程奥まで指が入り込み、ヒル魔は下半身をビクビクと震わせた。同調するように、反り返った性器がピクピクと歓喜に震える。
「…サニー、テメェ…っ!」
俺を殺す気か。息が止まる。クリフォードは、急激に自身の目が眇められ、血走って行くのを感じた。先程までどこか遠慮し、感じることを我慢しているようだったヒル魔は今、別人かと思う程妖艶にクリフォードに開かれていた。だらしなく両足を立てたまま、自身の腰と手を動かしクリフォードの指を出し入れしている。そしてもう片方の手で、胸の尖りを捏ねていたクリフォードの手を捕ると、堪えきれないとばかりに口に含んだ。舌を突き出し、ジュプジュプと音を立ててしゃぶられる。指の腹、爪の先、第二関節まで、舌を巻き付け唾液を絡ませて。
「…ッ糞!」
どこでスイッチが入ったのか。この変わり様は何だ。
今までどんなに乱れようとも、こんなに淫らに、何憚ることなく明け透けに求められたことなどない。一体今までどれだけ本心を曝け出すまいと抵抗していたのだろうか。これが、理性を捨て本能に従う奥底のヒル魔か。
クリフォードは、余りの光景に目蓋の裏がチカチカと白くスパークするのを感じた。同時に、叫び出したい程の歓喜が全身に湧き上がる。
「ヨーイチっ!」
「…ふ、ん……ぅ…んっ」
クリフォードの指を含んだままのヒル魔の唇に獰猛に噛み付いた。指でヒル魔の舌を掻き回し、開いた隙間に舌を差し込み、唾液を流し込んだ。何度も、何度も、ヒル魔の口端からクリフォードの唾液が零れても。この生き物を、手に入れたい。自らのモノで塗れさせたい。掠れた息で啼きながら恍惚とそれを嚥下するヒル魔に、沸き上がって来る悦びのままクリフォードは自らのモノをヒル魔のそれに擦り付けた。ヒル魔に塗られたローションのお陰でお互いのモノがヌルヌルと擦れ合う。
「ぁっ、ぁ…アッ!」
ヒル魔の顔が泣きそうに歪み、催促するように二人のモノに手が伸ばされた。張り詰めたクリフォードの雄を二、三度扱くと、ヒル魔は何を思ったか、急にクリフォードの身体を強く押し遣った。
「……サニー?」
悦楽に溶けた真っ赤な目元のまま、急に難しい顔になったヒル魔を、クリフォードが心配そうに覗き込む。もうあと一歩で挿入、と意気込んでいたクリフォードは、突然のストップに納得がいかない。
少し飛ばしすぎたか。一旦休憩が必要か。
心配するクリフォードを他所に、ヒル魔はいきなりガバリと起き上がり、クリフォードの肩を押して来た。自然、向かい合って座る格好になる。
「おい、急にどうし」
次の瞬間、クリフォードは目を疑った。ヒル魔が、上半身を倒して、クリフォードの雄を口に含もうとしていたからだ。細く長い指が、陰茎に添えられ、開かれた口から僅かに覗く鋭い犬歯が白く光った。紅く熟れた咥内と、白い牙のコントラスト。
そしてヒル魔は意を決したように、固い亀頭をパクッと咥えた。そして自ら喉の奥まで突き入れるように、深く呑み込んでいく。それでも含みきれない分は両の指で強めに扱いて。
「…絶景だな…。」
クリフォードはだらしなく好色な笑みを零した。この光景は生涯忘れられそうにない。
上半身だけ倒したヒル魔は、少し腰が浮き上がり、口淫の動きに合わせてその浮き上がった尻が僅かに揺れていた。少し苦しげに歪められた眉や赤くなった目元はひどく扇情的で、それでも元よりの挑発癖は抜けないのか、時折悪戯な表情でクリフォードを上目遣いに見上げてくる。
直接的な快楽だけでなく、ヒル魔の痴態にも脳を焼かれて、クリフォードの雄は血管が浮き出る程固く勃起していた。肉体的な愉悦と、心からの至福が全身を浸していく。苦しくなる程の愛おしさだ。
「ひもちイイれすか、センセー?」
銜えたまま、舌足らずに問うヒル魔に、「ああ、最高だ。」と答えながら、シャワーでしんなりと下りたヒル魔の髪の毛に手を差し込み優しく掻き回す。鼻に抜けたヒル魔の苦しそうな声が、それでも喜悦を滲ませていて、クリフォードの表情が更に緩んだ。
「サニー、悪いが限界だ。中に入れてくれ。」
その言葉に驚いたように固まったヒル魔は、口の周りをべとべとに濡らしたまま、「もう降参ですか、センセー?」と、いつもの悪魔の笑みを浮かべた。
・
・
・