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stickwithu
2009.12.14 uploaded
01. would you welcome please
 七月の強い日差しの下、グラウンドには部活動に励む若者たちの張り上げた声や、土を踏みしめる音、そして様々な器具の 発する音が、五月蝿いぐらいに夏を彩っていた。
 一学期定期考査最終日、三学期制のここ私立泥門高校は、明日からしばらくの間、試験休みに入る。夏休み前の登校日は 終業式を含めあと二日のみだが、クリスマスボウル二連覇を目指すアメリカンフットボール部は、試験休みも夏休みも、 もちろん試験最終日の今日も返上で、容赦なく練習が組まれている。
 「はい、みんな集合!……してください。」
 ヒル魔から主将を引き継いで随分経つのに、未だにパシリ体質が抜けないセナは、後輩の一年生たちへの指示すら敬語に なってしまうのだった。
 「えっと、じゃあ次はポジション別の練習…」
 その時、キャア、という女生徒の黄色い声。俄かに正門付近が騒がしくなり、セナもつられてそちらを向いた。
 「誰あれ、すっごいかっこ良くない?」「誰かの知り合いかな?」「何の用だろ?」「うっわやっべ、ガチで金髪だ。」 「ガイジン?すっげ、足長っげ!モデルみてぇ。」「いや、ガタイいいぞ。スポーツ選手じゃないか?」
 下校途中の生徒たちや、グラウンドの正門側半分を使っていた野球部、東棟の教室からたまたま外を覗いていた生徒たち などが、口々に囁きあう。
 セナは、遠目にしか確認できないながら、どうも渦中の人物に見覚えがある気がして…しかもその人物がなんとなくこちら に向かって歩いてきているような気がして…「いや、まさか、ははは…」と気休めに目を擦った。
 黒いサングラスに隠されて顔は判別できないが、肌の色と対比させるように全身を黒で固めたその人物は、日本人離れした 体躯、そしてゆるやかに逆立った金髪を持っていた。その上、鼻がとても高い…気がしなくも無い。
 「…おいアイツ、クリフォードじゃね?アメリカQBの。」
 黒木が十文字と戸叶に向かって、けれど全員に聞こえるような声で言う。
 セナはそれを聞き、はははやっぱりそうかな僕にもそう見えるんだけど、とは思ったもののやはり恐ろしすぎて口には出せ なかった。なぜなら、もし本当にそうである場合、間違いなく応待すべきは部長である自分だからだ。そもそもセナは英語は ディス・イズ・ア・ペンレベルで、言わずもがな、今回の定期考査も散々だった。しかも、それもメル友であるパンサー相手 にならなんとか笑って許してくれるが(そしてパンサーもぽつぽつと日本語を使ってくれるのでなんとかコミュニケーション がとれるが)、二つも年上の敵チーム司令塔、無敗の勝負師にしてトップランナー、王家の血族などと呼ばれるクリフォード ・D・ルイスが相手となると、アメフトの試合が関係ない今、とにかくひたすら謝って(悪いことなど何ひとつしていないが) 逃げ出したい気分だった。そうしてセナが現実逃避している間にも、クリフォードらしき人物は確実にこちらに近づいている。
 あ!ヒル魔さん!そうだ、きっとヒル魔さんに用事なんだ!まだ学校にいるかもしれない!
 と思い至ったときには既にクリフォードらしき人物はセナたちの目の前まで来ていた。もうこの近距離からならば、その 高すぎるくらいに通った鼻筋や、黒いサングラスの下の碧い瞳までバッチリ確認できてしまい、セナは小さく「ひぃ!」と 叫んだ。
 「は、はろ…」
 「テメェ、何しに来たんだよ?」
 「偵察かぁ?」
 「いや、俺らを偵察してどうすんだよ?」
 「果し状か?ムキャー!」
 「アハーハー!僕をスカウトしに来たに決まってるじゃあないか!」
 「ちょ、ちょっとみんな…!」
 セナが勇気を振り絞って「ハロー?ハウ・アー・ユー?」と紡ぎだす前に、三兄弟、モン太、瀧がクリフォードに絡み始めた。 言うまでもないが日本語で。クリフォードはそんな4人を完全に無視し視線を彷徨わせている。おそらくヒル魔を探している のだろう。「ど、どうしようこのカオス……と、とにかくヒル魔さんを…」と、セナが白目を剥きシワシワになりかけていた ところに、天よりの救いが現れた。
 「やー!セナー!みんなー!!テストどうだったー?…って、んん??」
 猛スピードのインラインスケートで登場した鈴音は、見慣れた輪の中に見慣れない人物を認めると、大きな瞳を零れ落ちそ うなくらい見開いて、パチパチと二、三回瞬いた後、くるりと東棟を振り返り、
 「妖一兄ー、お客さんだよー!!!!」
 と、学内全てに響き渡るような大声で叫んだ。
 数秒後(セナには数時間にも感じられたが)、来訪者とは違う逆立った金髪を二階の窓に見つけて、セナはほっと胸を撫で 下ろした。
 ガラガラガラ…
 『…テメー、何の用だ。』
 ヒル魔が流暢な英語で言う。すると、
 『…観光だ。サニーにガイドしてもらおうと思ってな。』
 とクリフォード。セナを含め大半のアメフト部員は彼らが何を言っているのか理解できなかったが、クリフォードの第一声が、 思ったよりも穏やかであったことにセナは驚いた。
 『ァア?…………そこで待ってろ。』
 ヒル魔は少し驚いた風であったが、暫く怪訝そうな顔をした後、突然ニタァ、と、遠めにも分かるほど、邪悪で妖しげな 悪魔の笑みを浮かべた。
 「オイ糞チビ!部員全員そこに集めとけ!」


******************************


 「ねぇ誰なのこの人?」
 「さぁ〜?先輩たちは知り合いみたいだけど…中坊知ってる?」
 「知ってるも何も!ワールドカップユースアメリカチーム正QB、クリフォード・D・ルイス先輩ッスよ!!!」
 「「「「え、え゛??どぇえええええええー!!!!????」」」」
 あははははやっぱりそうだよねそれが普通の反応だよね、ホントなんでこんなところにクリフォードさんが?と、 セナはテンパりすぎてフラフラだ。鈴音に「やーもうセナったら!キャプテンなんだからシャキっとしないと!」 と背中をバシバシ叩かれている。
 三兄弟はまだ何か言いたげだったが、一年生たちの、「ヒル魔先輩だ!」というはしゃいだ声に、とりあえずは引き下がった。
 そうして暫くぶりに、グラウンドに悪魔が降臨した。胸元の開いた、夏服の白い半袖Yシャツがキラキラと太陽の光を 反射しているのに、何故だか底冷えするような妖気を感じて、セナは身震いする。
 「喜びやがれ糞ガキ共!!今日一日特別コーチを務めてくださる、クリフォード・D・ルイス先生だ!」
 「…ハ?」
 「ハァ?」
 「はぁあああ?」
 いやいやいや待って明らかに違うっしょそんな勝手なヒル魔さん……とセナは心の中で突っ込んだが、とりあえず悪魔の前 キャプテンは大変楽しそうだ。
 『…おい、サニー?』
 「先生はこの秋からかの高名なノートルダム大学に進学なさいマスが、その直前の夏休みを利用してワザワザ日本まで 赴いてくださいました。くれぐれも粗相の無いように、糞ガキ共。」
 怪訝そうなクリフォードを無視して更にヒル魔は続ける。
 「…まずはポジション別練。糞チビ、テメーは糞トガリ鼻とマンツーだ。糞マネJr.、ユニフォームとスパイク、 それからパッド一式用意しろ!」
 まもりの後を引き継いだ働き者の女子マネージャーは「は、はいっ!」と焦って部室に駆けた。その他の部員たちも、 各自自分のポジションの練習へと移っていく。
 残されたセナは、無表情の特別コーチに、お手柔らかに……と右手を差し出した。










可哀想なのはセナではなくてクリフォード先生です。
新一年生部員達は、デビルバッツに憧れて入部した者が多いので、ヒル魔さん=憧れのアイドルです。
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