エントランスを入ってすぐのオープンカフェ、マネキンのような完璧な笑顔を貼り付けた受付嬢等の正面に、
一人の女子高生が座っていた。
黒のローファー、紺のハイソックス、同色のチェックのプリーツスカートは膝上10p程の丈で、
目に眩しい真っ白のカッターシャツは胸元のリボンと上二つのボタンが外されており、
だらしなく羽織られた大き目のベージュのカーディガンが、不釣合いな様でもあり、嵌っている様でもあった。
そのまま上に視線を辿らせると、鋭利なまでの美貌。
細い顎に薄い唇、切れ長の瞳は漆黒で、眉は細いながらも意志の強さを表すようにきりりと立っていた。
目が合うだけで射抜かれそうな美貌を、肩まで伸びた無造作な金髪が覆い隠している。
僅かに覗く四つのピアスはリング型のブラック。
しかしその金髪もピアスも、彼女の怜悧さは隠せない。
大胆に組まれた足と、テーブルの上でラップトップを弄る手指はうっとりするほど細く長く端麗であった。
彼女は、先程からフロア中の視線を集めていた。
カフェでアイスコーヒーを飲みながらパソコンを弄る女子高生――一見何の変哲もない筈のその風景は、
この場では異様であった。
なぜならばこのカフェは、国内外で有数の優良企業を展開する、ペンタグラムコーポレーションの自社ビルのエントランスフロア
に開設されているからだ。
言うまでも無く、利用者はこのビルに勤める者、出入りする業者、そして来客に限られる。
その中で、明らかに学校帰りとわかる女子高生が堂々と居座っている様は、非常に浮いていた。
カフェの利用客、そしてエントランスを通り過ぎる社員や来客の誰もが、その光景に首を傾げていた。
そこへ、秘書だろうか、数人の男女を引き連れた、蕩けそうな程甘いマスクの青年が、
エレベーターを降りホールへ出てきた。
青年はカフェでパソコンに熱中している女子高生を見つけると、引き締めていた顔を綻ばせた。
「ヨウ!」
ヨウ、と呼ばれた少女は、視線だけをチラリと青年に遣り、姿を確認すると興味もないと言わんばかりに目の前の画面に視線を
戻した。
「おいおい無視すんなよ!仮にも義弟だぞ?」
「テメーの相手してるほど暇じゃねぇ。仕事中だろ?とっとと失せな。」
絶世の美貌の少女の口からは、声こそ少し低めのハスキーヴォイスだが、
信じられないほど粗暴な言葉が紡ぎ出された。
「いーじゃねぇか少しぐらい。クリフォード待ってんだろ?これからデートか?
いいねぇ〜ラヴラヴの新婚さんは。」
「デートだか何だか知らねぇが呼び出された。
6時10分に待ち合わせだから、もうそろそろ来んだろ。」
そうして再び画面へと向き直り、真剣な表情でキーボードとマウスを操った。
「ねえー、何やってんの?さっきから真面目な顔して。」
「アメフトの試合のオッズ。勝てば三億ほど儲かる。」
「さっ…!!!?」
「ケケケ、小銭張っても面白くも何ともねぇだろ?」
「…流石クリフォードの奥さんだよ。
いや、ヨウだからあのクリフォードが奥さんにしたがったのか…。」
「知るか。」
がく、と項垂れる青年と面白そうに笑う少女の元に、カツカツというハイヒールの甲高い音が聞こえてきた。
「あら、バッド様じゃありませんこと?奇遇ですわね、ごきげんよう。」
ハイヒールの主は、波打つ黒い髪に真っ赤な口紅、ダイナマイトと呼ぶに相応しい身体の凹凸が印象的な、
妖艶な美女であった。
「ごきげんよう…サヤカ嬢…今日も美しいね。」
「あら、嬉しいわバッド様。…そちらは?」
視線で、バッドの隣に座る女子高生は誰かと尋ねる。
業界では、この話――ペンタグラムコーポレーションの若社長クリフォード・D・ルイスが、齢16歳の女子高生の妻を娶った
と――は有名な話であるので、
同じく王手のアミノ商事の社長令嬢であるサヤカが知らないはずはないのだが、
恐らくヨウに対して嫌味の一つでも言ってやりたかったのだろう、
内心辟易していたバッドは、けれど穏便に済ませるため、茶番に付き合ってやることにした。
「あぁ、こちらは兄の奥方で、ヨウと申します。」
「はじめまして、アミノサヤカさん?ヨウ・ルイスと申します。」
ヨウは椅子から立つことも、組んだ足を解くことすらせず、座礼をしただけであった。
「…こんな小娘の何処が良いのかしら?なんて貧相な身体。下品な服装。
礼儀もなっていないようね。 それに、夫を支えるだけの器量があるのかしら?高校生の身で。
ビジネスの話ひとつも出来ない癖に。」
あー始まった、とバッドとヨウは思った。
しかし当のヨウはそれに対して何の憤慨も感慨もないので、
「そうですね、私にとっても本当に不思議です。ただクリフォードさんはとても立派な方で…
…彼に求められたので、私も否と言えず籍まで入れてしまいましたの。」
もう慣れてしまっているのだろう、ヨウは平坦な声で、決まり文句のようにそう返した。
角が立たず、けれどそれ以上の口撃を抑える言葉を。
隣で聞いているバッドは、せめてお前その棒読みなんとかしろよ…、と思っている。
「くっ…!アンタなんか、すぐに捨てられるわよ。無能で貧相な小娘なんて。
せいぜい、今のうちに幸せを噛み締めておくことね!」
「…妻が何か、粗相を致しましたか?」
サヤカのヒステリックな捨てゼリフの直後に、凍えるほど冷徹な声が響いた。
「クリフォード!」
「…2分35秒遅刻だ。」
「それはそれは、待たせてすまなかったな。お詫びに何をお望みで?」
「充分な睡眠時間。」
「却下だ。」
意中のクリフォードに罵倒を聞かれたことと、自分を無視して進められる会話に、
サヤカの自尊心は耐え切れず、逃げるようにその場を後にした。
「あちゃー、サヤカ嬢、相当お怒りだね〜。彼女昔からクリフォードにご執心だもんなー。」
「別にテメェでもいいんじゃね?あの女、好きなのはクリフォードじゃなくて金と顔と地位だろ?」
「いや…全ての女性は愛すべき存在だと思ってるけどね…流石にアレは俺も…。」
「ぶつくさ言ってねぇで行くぞ。久しぶりの定時上がりだ。
バッド、テメェはこれから接待だろ。さっさと商談まとめて来い。」
バッドは大げさに肩をすくめ見せ、「ハイハイ、お邪魔虫は退散しますよ」と呟いてエントランスへと向かった。
脇に秘書達を従えて。
それを脇目に、クリフォードはヨウの荷物を自分の秘書に持たせ、ヨウに向かって左腕を上げて見せた。
今度はヨウが肩をすくめ、上げられた左腕に、右腕を絡めたのだった。
「あの女、俺が実は男だって知ったら、腰抜かして驚くだろうな。」
「やめとけ。それでまたギャアギャア騒がれたらウゼェ。」
二人の受付嬢が、恭しく頭を下げた。
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あぁまたやらかしてしまいました…!(凹)
…どんな紆余曲折を経てこういうことになっているのかは書いている私も良く分かりません。
ただ、女子高生なヒル魔さん(♂)が書きたかったんです。
女子高生ヒル魔さんは、モデルの冨○愛さんが、17歳で高校の制服を着たままvo○ueに載ったときのようなイメージで
お願いします。
あ、勿論顔は違いますよ顔は。ただ、スタイルがそんな感じの。着崩し方とかね。
あ!ヒル魔さんの左手薬指に指輪がある、って言う描写忘れた!
ヒル魔さんは普段も女装、女子高生として生活しているということで。
バッドさんはクリフォードの実弟設定で。2010/4/11&12日記より。