フー…
再びバスの中に、決して大きくは無い溜息がこぼれた。
「…んだよ、スマートじゃねぇな!さっきから溜息ばっかり吐きやがって、何なんだよ?!」
ワールドカップユース決勝、VSアメリカ戦後。
ホテルに戻る日本チームのバスの中は、戦い疲れて眠る戦士たちの寝息…もとい、鼾と、今後の予定を打ち合わせする
ヒル魔、まもり、どぶろくの声、そして残念ながら決戦の舞台に上る事がかなわず熱を持て余している二軍の選手たちの
喧騒が織り交ざっていた。
そんな中、ひっそりと、しかし切なげに繰り返される赤羽の溜息に、隣に座っていたコータローが我慢の限界を迎えた。
「フー…いや、何でもない。」
ピキ、とコータローの額に皴が刻まれる。
「なんでもない、じゃねぇだろ!言いたい事があるなら言えよ!」
コータローは髪を梳かしながらも、掴みかからんばかりの勢いだ。
「…実は、」
「どうしても欲しいギターがあるんだ。」
昨日、ホテルの近くの楽器屋にフラリと入ったら、そこに眩い女神が居たんだ―――。
相変わらず赤羽の語ることはほとんど意味不明であったが、どうやら彼がヴィンテージもののギターを欲しているらしい
こと、それは日本では手に入らずアメリカ国内のみの販売であること、そして一高校生が買えるような値段ではないことを、
付き合いの長いコータローは何とか理解した。
「で、いくらなんだよ。ちょっとぐらいなら、誰かに借りりゃあいいじゃねーか。」
「フー、だからそんな額ではないと言っているだろう。高々高校生の小遣いを集めた程度で、彼女の孤高のサウンドに
届きはしない。」
「だ、か、ら!いくらだってきいてんだよ!」
「フー、まったく君って人は、無粋だな……3万$さ。」
「?それいくらだよ?」
「1$100円として、300万円。」
「さっ…!!!? 」
コータローが櫛を髪に当てたまま固まる。
「フー、だから言っただろう、彼女は孤高の存在なのさ。」
「そ、そりゃあ…ま、まぁ、いつかは買えんだろ。」
「いつかって、いつだい?」
「…。」
「…。」
ぷくー、パチン。
その時、赤羽の前の座席で、風船が割れるような小さな音と共に、逆立った金髪が動いた。
ドサドサドサ…。
赤羽は突然の衝撃に、呆然と目を瞬いていたが、我に返り現状を把握しようと試みた。
今までまもりとどぶろくと打ち合わせをしていたはずのヒル魔が、突然後方に振り返り、赤羽の頭上にいくつかの塊を
落とした。
そして、今自分の膝の上にある、その塊は…
「やる。それで買って来い。」
「ヒ、ヒル魔!こ、これは受け取れない!」
「ァア?欲しいんだろーが、ギター。昨日カジノで儲けた分だ。別に返さなくていい。」
「い、いや、でもそんなわけには…!」
ガチャリ、冷たく硬質な感触が赤羽の眼前に突きつけられる。
「それ以上何か言ったらその赤い目ん玉ブチ抜くぞ。
……どーしても納得できねぇなら、一つだけ俺の言うことを聞け。」
分かった、とばかりに赤羽は両手を挙げ、降参の意を示した。
帰りの飛行機では、両腕に大事にギターを抱えて、歓喜の涙を流し続ける赤羽の姿があったとか。
帰国後、赤羽がヒル魔から、「最京大に来い」というメールを受信するのは、もう少し後の話。
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一代目拍手お礼文でした。
こんな感じできっどんの会社にも投資したんだと思ひます。
うちの赤羽は最京大でのムサ&栗田ポジションです。二人を合わせたような感じです。(ぇ