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Through The Fire (trial)
2013.1.1 uploaded
 カタカタと鳴るキーボードの音が止んだ。

「ヒル魔君っ!」

 ヒル魔が倒れたのは、試合中でも練習中でもなく、静かな三限古文の授業中だった。
 ヒル魔の右隣の雪光の声が、暖かな教室の空気を唐突に裂く。いつもは柔らかく響く雪光の声が、驚きと焦りに震える。
 まもりが後ろを振り返ると、咄嗟に抱き留めたのであろう雪光の腕の中に、身体を丸め崩れ落ちた悪魔の姿があった。

「ヒル魔君!」

 いつもなら「うるせー黙れ糞マネ」と返されるはずの金切り声は、教室をざわめかせただけだった。だって、座ったまま倒れたのだ。あのヒル魔が、授業中に。
 確かにここ暫くの間、ヒル魔の体調は良くなかった。勿論言動に出すことはないが、隠しきれない部分――これだけ近くで長い時間を過ごしていれば分かる――顔色が悪かったり、逆に紅潮していたり、肌が荒れていたり(まもりは今まで怪我以外でヒル魔の肌に凹凸があるのを見たことがない)、食欲が異常に落ちていたり、かと思えば普段は匂いだけでうんざりするような甘味に興味を示したり。練習でも、試合でも、疲れやすく、度々立ち眩みを起こしているようだった。それでも何とか春季大会を勝ちあがって来ているが、まもりは何度もヒル魔に休養をとるよう懇願していた。
「ひ、ヒル魔くんっ!?だだだだいじょ、ほほほほ保健し」
「先生、ヒル魔君を病院に連れて行きます。」
「そそそそそそうだねそれがい…」
「雪光君、栗田君とムサシ君を呼んできてくれる?」
「うん。救急車は?」
「タクシーの方がいいわ。集英医大ならすぐ診てくれると思うから。」
 ヒル魔の名前を出せば、とは言わなかったが、この近辺で脅迫手帳が一番効力を発揮する病院は集英医大だということをまもりは知っていた。
 程なくして飛んで来た栗田に意識のないヒル魔を運んでもらい、まもりはムサシと共にタクシーに乗り込んだ。









蛭魔さんサイドで書くとあまりヘビーになっちゃったんでまもちゃん視点です。
内容的には重いんですが悲壮感が出ないようサラッと書いたつもり。
続きは本で!
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