キャンプ最終日、プレシーズン初戦を目前にして、サンアントニオ・アルマジロズ寄宿舎のベッドルームでは
過酷なキャンプを生き抜いたルーキーを囲んで、ささやかに酒盛りが行われていた。
程よく酔いも回ってきた頃、皆の言葉を奪ったのは、怖いもの知らずのルーキーだった。
「なんでコーチはヒル魔を切らないんだ?確かに頭はいいしパスもそこそこだが、
あんなに細っこくて、身体能力もない…ただクリフォードの女だっていうだけだろ?
糞ジャップのカマ野郎が。」
わいわいがやがやと酒盛りをしていた気の良いラインたちも、今のルーキーQBの発言にゾッとしたように
目を見開き黙り込んだ。
「び、びびびビル!!いいい今のはまずい!まずすぎるよ!」
いち早く我に返ったパンサーは、慌ててどもりながらキョロキョロと辺りを見回した。
パンサーは既にアルマジロに所属し今年で8年目。
嘗ての黄金時代を越えるとまで言わしめた、アルマジロズ復活劇の立役者の一人だ。
NFL一の足を持つと称えられるRBのパンサーの他に、
4年前にドラフト一巡目で獲得したQBクリフォード、
そしてその翌年にまさかの二年連続のQB獲得、と誰もが驚いたQBヒル魔も、
現在向かうところ敵なしと謳われる最強アルマジロズの功労者だ。
今季ドラフト五巡目でチームに入ったルーキーQBのビルは、
そのうちの一人、QBヒル魔が実力もないのにクリフォードと同等の扱いを受けているのが許せない、
いや、ヒル魔よりも自分の方が勝っているのに何故…ということを言いたいのだろう。
「…小僧、テメェはまだ試合に出てなかったな。プレシーズンが始まれば今に分かると思うが…
いいか、本当におっかねぇのはクリフォードじゃねぇ。」
むつけたビルの肩に腕を回し、言い聞かせるように低い声で喋り始めたのは、ベテランCのジェイだ。
「お前に良い話を一つ聞かせてやる。先シーズンのプレイオフの話だ。」
ひっ、と息を呑む音がそこかしこから聞こえた。
パンサーも例に漏れず両耳に手を当て、「ノー!」と叫んでいる。
どんな恐ろしい話なんだ?ビルは訝しげにジェイを睨んだ。
「あの時は42ers相手でな、2Q残り10秒で最重量DLにヒル魔が強烈なサックを食らって、
脳震盪を起こしてタンカで運ばれた。そのハーフタイムに」
「おいよせ」「その話じゃなくてもいいだろ」いくつか野次が飛んだが、ジェイは構わず続けた。
「ヒル魔は意識を取り戻し、医者の反対を押し切ってフィールドに戻ろうとした。」
「…それの何処が良い話なんだよ?」
「まぁ話は最後まで聞け。」
ジェイはわざとらしく咳払いをすると、打って変わってテンポ良く続きを話し出した。
「…テメェも知ってるから今更隠さねぇが、それを恋人であるクリフォードが止めたんだ。
『サニー、テメェ一度脳震盪起こしてんだぞ。今ドクターにも言われただろうが!
一度検査をした方が良い、視力や記憶に後遺症が残る虞があるし、
すぐ試合に戻ってまたサックなんか食らって、もし打ち所が悪ければ…』
結構な剣幕で怒っててなぁ。アイツぁ怒ると声もでかくなるしまくし立てるように話すんだが」
「いいから、続きは?」
「まぁ焦るなって、小僧。…その凄い剣幕のクリフォードの台詞に被せるように、
ヒル魔がな、言ったんだ。『I don't care.(どーでもいい)』って。」
?を浮かべて、ビルの眉間に皺が寄った。
「ヒル魔はな、マジなときは静かに言うんだ。あん時もマジで怒ってたな。
…そんで、それを聞いたクリフォードが、今度はマジギレしやがった。
『テメェにとってどうでもよくても、俺にとってはよくねぇ!いいか、フィールドには戻るな!
俺にはテメェが一番大事だ!』
って、怒鳴ってナァ。…そしたら、ヒル魔何したと思う?」
「…泣いて喜んだ、とか?」
「ハッハッハ!だからテメェはまだ分かってねぇんだ。ヒル魔に限ってそりゃありえねぇ。」
「じゃあなんなんだよ!普通、恋人から『大事だ』なんて言われたら、女は喜ぶもんじゃねぇのか?」
「クックック…あぁ、すまねぇ、別にテメェを馬鹿にしてるわけじゃねぇんだ、小僧。
ヒル魔のことを『女』って言えるのは、今ここではテメェだけだ、って思ってな。
…じゃあ正解を教えてやろう。正解は…クリフォードの顔に唾を吐き付けた、だ。」
「は?何だって?」
ビルの顔が驚きに歪んだ。
「唾を吐いた、つったんだ。おまけに、
『俺はテメェより目の前の一勝が大事だ。脳震盪起こそうが、目ん玉飛び出ようが
記憶失くそうが手足が千切れようがこの先一生糞垂れ流そうが知ったことか。
フィールドは戦場だ。戦場に私情を持ち込むな。勝つか死ぬか、それだけだ。
テメェがそんな糞甘臭ぇ野郎だったとはな、失望した。
二度と俺の前にそのツラ見せんな。』
ときたもんだ。
…元々ヒル魔が強烈なサックを食らったのも俺達のミスなのにな…ゾッとしたよ。」
ビルは声もなく視線を泳がせた。
実際、試合中にそういったことは起こりうる。
怪我だけで済めばいいが、その怪我が原因で死に至ることも少なくはない。
「皆、ヒル魔は奇策だけが取り得の、控えのピンポイント要員だと思い込んでる。
でもな、アイツは多分誰よりリーダーの器だ。
チームメイトの士気を高めることにかけてはありゃ才能だな。
クリフォードも確かにリーダーシップはあるが、アイツはどちらかと言うと、
『クリフォードが何とかしてくれる、大丈夫だ。』って思わせるクチで、ヒル魔とはちと違う。
ヒル魔は『死んでもこいつを守る』って思わせるQBだ。
だから、俺たちは実力の120%が出せる。
クリフォードはただの天才だが、ヒル魔はフットボールに魂を売った悪魔だ。
…イカレてると思うだろ?でもな、これがフットボールだ。」
ただの天才、という表現はおかしいだろうと突っ込む余裕もなく、
ビルはゴクリ、と唾を飲み込んだ。
「…それで?その試合は?」
「なんだ、結果はお前も知ってるだろ?その後30点以上の大差をつけて俺達が勝ったさ。」
「いや知ってるけど!そうじゃなくて!」
「あぁ、話の続きな。
…この話にはオチがあってな、その後クリフォードが…っと、その前にお前の予想を聞こうか。
小僧、クリフォードはこの後何したと思う?」
「…ショックで黙り込んだ?」
「ハッハッハ!そんなんで全米1QBが張れるか!」
「じゃあ、逆に切れてヒル魔を殴った?」
「切れたのは正解だが、クリフォードに限ってヒル魔を殴るなんてなぁ万が一にもありえねぇな。」
「何なんだよじゃあ!?」
「正解は、切れたクリフォードはヒル魔の顔を両手で挟んで、
『テメェにとってフットボールが一番なら、俺がテメェのフットボールになってやるよ!』
と叫んだ、だ。」
「…???…はぁああああ???」
いや、意味わかんねーし。
ビルはがっくりと肩を落として呟いた。
「まぁ俺達も意味はよくわかんなかったんだが…後半スタメン出場したクリフォードは、
ヒル魔が出る隙もないくらい、パス良しラン良しスクランブル良しの猛攻でな。
試合が終わってみたら後半だけで48点取りやがった。TFPは全部タッチダウン。
付き合わされた俺達もたまったもんじゃねぇ、っつうんだ。
猛烈に怒ってたみたいだが、アイツもなんつーか、
怒ってる時ほどえげつないゲームするんだよな。」
「……。」
「そんで試合が終わった時にヒル魔がベンチで呟いた言葉がこうだ、
『What a fuckin' idiot.(糞馬鹿野郎が)』。」
「……。」
「まぁ、その後のミーディングでコーチが、
『いいか、クリフォードみたいな男でも、カミさんの尻に敷かれてるもんなんだ。
その方が何かと上手く行くんだよ。お前等もそうだろ?』
って言ってたのは笑ったが。」
「…それ、ヒル魔が居る前で言ったのか?」
「まさか、ヒル魔は検査のため病院に行ってたさ。
じゃなかったら流石のヘッドコーチもそんなジョーク飛ばせねぇ。」
「…だよな。」
「で、でもね、ヒル魔も今の方が大人しくなったんだって!だって昔はいっつも銃撃ってたし!
『チンタラ走ってんじゃねぇ!』って…火炎放射器とかミサイルとかもたまに使う、って、
セナが言ってた!今は銃使ったり脅迫したりしないだけマシじゃない?」
「…。」
「……。」
フォローになっていないパンサーの言葉に場は更に静まり返ったが、
「ま、まぁ、逆に死ぬ気で頑張ってる奴にはヒル魔は優しいからな。
ホントよく見てるんだ、選手一人一人をな。」
最後にジェイが付け加えた一言で、漸く酒盛りの陽気さが戻ってきたようだ。
今はただ、過酷なキャンプを耐え抜いた互いの健闘を称えて。
長い長いシーズンの前、安らかな時を、戦士達は過ごした。
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何この長さ。(唖然)
えにぃ、ぎぶん、さんでーというアメフト映画を見て興奮して思いついてしまったネタなんですが…。
映画自体はもっとシリアスで、オーナーとコーチの確執とか粋がってた控え選手の成長とか、これがフットボールだ!みたいな野蛮さ
とか、現実ならではの救いのなさとかも出てたんですが…。
何がどうなってこんなギャグみたいなネタを思いついてしまったのか、私にも分かりません。
…実際はキャンプが終わっても誰がいつ落ちるか分からないので、選手同士はもっと殺伐としてるかと思います。
でもうちの先生とヒル魔さんはこんな感じかな〜。
ヒル魔さんが男の中の男で、先生は限りなく天才に近いただの馬鹿。(←酷)
クリフォヒルをパンサーと同じアルマジロズにしてしまったんですが、あまりパンサーの居る意味はなかった。(死)でも原作で
他のチーム名出てないしさ〜。めっちゃオリキャラ使っちゃったんですが許してください。2010/9/8日記より