うじゃうじゃとという形容がしっくりくる程に、広いホテルの会議室を記者達が埋め尽くしていた。
アメリカンフットボール・ユースワールドカップ。
初めての開催から、もう何年経っただろうか。
伝説とも言える初回の米日引き分けの決勝戦から後、優勝国は悉くアメリカであった。
当たり前と言えば当たり前、決勝とはいえこれといって劇的な展開があったわけでもなく、
米国民は些か退屈していた。そして同時に期待していた。
第一回大会における、五芒星のような、圧倒的なスターの登場を。
そして今やっと、全国民が待ち望んだヒーローがこの場所へ現れようとしていた。
名を、クロト・ルイス。
16歳にして全米1QB、そして1ランナーの座へと登り詰めた男だ。
その身体能力、真性のギャンブラーとも言えるプレイスタイル、そしてその名からも、
第一回大会五芒星が一人、クリフォード・D・ルイスを彷彿させるとして注目を集めていた。
ハイスクール時代からその名を世界に轟かせていたクリフォードは、順当にノートルダム大へ進学、
カレッジのチャンピョンシップシリーズでも4年連続で勝利を修めドラフト一位でプロ入り、
プロ入り2年目にしてスーパーボウルをも制覇し、選手生命は短いと言われるNFLにおいて、
35を数える今でもまだその猛進は続いている。
今日これから行われる記者会見には、クリフォード2世と名高いクロト・ルイスの登場とあって、
会場の熱気は頂点に達していた。
ざわ…空気が乱れたと思えば、圧倒的な存在感をもってクロトが記者会見場に入場した。
トレードマークともいえる豹柄のファーパーカーからはブラックのTシャツが覗き、
その下に肌に沿うようなラインのブラックのパンツ、
更に下にはベルトが何重にも巻きつけられたブラックのエンジニアブーツ。
ご丁寧にD&Gのサングラスを装着して、髪は緩くオールバック。
僅かに乱れたハニーブラウンの前髪がサングラスにかかっている。
「おぉ」と漏れる感嘆の声など一切耳に入らないがごとく、クロトは面倒くさそうに席に着いた。
はじめのいくつかの質問は一応年齢を意識したのか、同席したもう一人の3年RBに向けられたもので、
クロトは欠伸を噛み殺すこともせず、退屈そうに脚を組んでいた。
そして漸く、待ちきれないとばかりに質問はクロトに向かう。
「Mr.ルイス、一つお尋ねします。プレイスタイルといい、容姿といい、苗字といい…もっとも、
苗字は生まれながらのものと思いますが…、
やはりあのクリフォード・D・ルイス選手を意識してのものですか?」
満を持して、とばかりに繰り出された記者のあまりに馬鹿馬鹿しい質問に、
クロトは思わずズッコケた。
「はぁああ??何言ってんだテメー…お前等散々『ルイス2世』だなんだって、
記事で書きたてやがってたじゃねぇか!何言ってんだ今更!」
「…そ、そうですよね、失礼致しました。やはりクリフォード選手に憧れてらっしゃるんですね。」
「ちょっと待て。いつ誰がんなこと言った?
俺は『ルイス2世』であることは認めるが、あの糞トガリ鼻に憧れてるわけじゃねぇ。
胸糞ワリィこと言うな。」
「…は、はあ?それは一体…?」
「っタマ悪ぃなテメェ。だから、『ルイス2世』なのは事実だから認めるだけだ。
認めたくねぇが、俺はあの野郎の実の息子だからな。けど、憧れてるっつーのは断じてねぇな。
むしろ俺はタクティクスに関してはお袋の方が近い。」
「む、息子??!!!」
「お、お母様?!」
「あぁ、クリフォード・D・ルイスが親父だっつってんだ。
お袋はヨーイチ・ヒルマに決まってんだろ?」
若くして怪我のため引退を余儀なくされたクリフォードのチームメイト、
双璧とも呼ばれていた名QBの名前を出されて、記者たちの思考は今度こそ停止した。
隣で同じくインタビューを受けていた3年RBも、ぎょっとした顔でクロトを見つめていた。
「あ゛ー?何驚いてんだ??」
ヒルマもクリフォードもクロトも、隠れてこそこそするわけでもなく
常に堂々と行動していたつもりだ。
口止めもされていなければ、すったもんだがあった13年前を境に、
情報操作をすることもなくなった。
なのに何故今の今まで気付かなかったのか、クロトのほうこそ心底驚いた。
常日頃スキャンダルを狙っているマスコミでも、思い込みによって眼が曇っていたということか。
あのクリフォードが、ゲイな訳は無い。
仮に、万が一、クリフォードとヨウイチ・ヒルマが恋仲だとしても、男性であるヒルマに子供が産める筈はない。
あ゛ー、ヨーイチのケケケケ笑う姿が眼に浮かぶわ。
クロトは溜息をつき、目を瞑り肩を竦めて見せた。
その姿は、耳の先が尖っているということを除いて、若き日のクリフォード・D・ルイスと瓜二つであった。
・
・
・
Romanticシリーズのクリフォヒル実子、クロトのハイスクールというかワールドカップ妄想。
ネタを下さった隊長に捧げます。
補足説明:
クロトは最京大で育っているので、誰かさんの口癖がそのまま受け継がれてしまっています。
「はぁああ?」とか、「あ゛ー」とか。(笑)
3歳まで母の手一つで育てられたためか、全面的に母親贔屓でエディプスコンプレックスです。
セクシャルな意味ではなくマム=ヒル魔さんの事が大好きすぎるので、
自分とマムとの仲を邪魔するダドには、
「死ね、トガリ鼻が折れて死ね!」
と常日頃から敵対心を抱いています。2010/6/14日記より。