風呂上り、濡れた金糸をそのままにカウチでアメフトの再放送を見ていたところに、
思わぬ人物から着信があり、妖は口角を上げた。
第一声の軽口を一瞬で考えてから、真っ黒な携帯の通話ボタンを押した。
「んだ?新婚早々、実家に帰って来んのか?」
「馬鹿言ってんじゃないよ。葉柱は今日残業で遅くなるってさ。
だいたいアンタだって今実家じゃないだろ?
アンタこそ寂しがってんじゃないかと思って、わざわざ電話してやったんじゃないか。」
「ケケケ、そりゃテメーだろ。」
笑いつつも、否定はしなかった。
自分自身ですら気付かないような微細な感情変化までも、実姉は機敏に感じ取るのだから、
何を言っても無駄なのだろうと、とうの昔に諦めている。
「相変わらず、糞爬虫類とよろしくやってんのか?」
「ったくアンタはホントに口が悪いね。…知ってるだろ、葉柱は優しい男だよ。」
「ケーケケ、救いようのねぇ馬鹿だけどな。」
「アンタこそ、社長さんには良くしてもらってんのかい?」
「ま、前よりは面白ぇな。」
それが最大級の賛辞であると、実姉は知っているはずだ。
電話口の向こうでクス、と笑いが零れる音がした。
そしておそらく、真剣な表情になったのだろう、コホン、と軽く咳をするのが聞こえた。
「…アタシはね、アンタが男だろうと女だろうと、アンタの幸せを願ってるよ。」
「…………知ってる。」
出会いは事故のようなものであったが、性別を偽り、戸籍を書き換えてまでクリフォードと一緒になったことは、
真剣に考えた末の決断なのだと、この姉は理解している。
その声色は、どこまでも優しく、姉でありながら、早くに逝った母の替わりに母で在り続けた彼女の、
深い強さが溢れていた。
「…アタシも幸せだよ。」
アタシ『も』という言葉に、妖は諦めたように微笑んだ。
「あぁ、そーだな。」
「今年は実家に帰るのかい?母さんの墓参りへは行くんだろ?」
「あぁ、墓参りは行くが、家には寄らねぇな。アイツんな時間とれねーんだよ。」
「ははは、仲が良くていいじゃないか。」
常に一緒に行動したがるのは、クリフォードの方であると知っていて、顔に似合わず、と笑ったのだろう。
妖にしてみれば、クリフォードの表情ほど分かりやすい物は無いのだが、
他人から見ると無表情に見えるらしい。不可思議なことだ。
「あ、ウチのが帰ってきた。じゃあね、夏風邪引くんじゃないよ、妖一。」
「ガキができたら教えろよ。」
『馬鹿言ってんじゃないよ』と返されるかと思った言葉は、実際は『楽しみに待ってな』だった。
妖一、と呼ぶその声を、妖は懐かしく思い出していた。
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メグ姉:ヒル魔さんの実姉
葉柱:メグ姉の旦那
という設定でお送りしました。
メグ姉さんの口調が地味に分からない件。
メグ姉さんは私の腐脳内パラレル妄想では、かなりの確立でヒル魔さんのお姉さん役です。
葉柱嫁になったり皇帝ドンの寵妃の一人になったりと、大忙しのメグ姉です。(らんた脳内)
もしかしてクリフォード本人を登場させない方が、先生の株は上がるのではとふと思いました。
2010/7/22日記より。